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ボクシング

三谷 大和 yamato mitani

1971年生まれ。岡山県出身。岡山山陽高校時代にインターハイ優勝。早稲田大学に進み、3度全日本王者につく。アマチュア時代の戦績は104戦91勝(62KO・RSC)13敗。93年8月に6回戦でプロデビュー。日本スーパー・フェザー級王座を一度、東洋太平洋同級王座を2度獲得。96年には2度WBC世界同級王者・崔竜洙に挑んだが、いずれも判定で敗れた。プロでの戦績は16戦12勝(9KO)4敗。

三谷大和

「試合に向けて気持ちが高ぶってくるとサンドバックが本当の対戦相手に見えてきて、
取り憑かれたように殴り続けるんです」

自分を発憤させる言葉を大声で叫んで、試合に向けての気持ちを高ぶらせていく

――三谷さんは試合前になると相手選手のことを「ぶっ倒してやる」って感じでよく叫んでいたそうですが。

 ええ、よく声を出していましたね。試合前とか、対戦相手が決まってポスターができ上がると、そのポスターの相手選手の写真に向かって「よし、ぶっ倒してやるぞ」とか「待ってろよ、もうすぐぶっつぶしてやる」といった感じで大声で叫ぶんですよ。待ってるんじゃなくて、「こっちからいくぞ」っていう心理状態にしていくんです。
  あとは寝る前ですね。ときには不安になるじゃないですか。そんなときは、大声で「俺は世界チャンピオンなんだ」って何度も叫ぶんです。そうすることで意外に納得して眠れるんですね。周りの人は三谷は変人だって思ったでしょうけど(笑)。

――練習中もよく声を出していたんですか。

 ええ、練習前にも自分の気持ちを高めるために「俺は絶対、世界を取るぞ。俺は世界チャンピオンなんだ」とか「○○、来るんだったらいつでも来い! ぶっ倒してやる」ってやはり大声で叫ぶんですね。大声を出すことで、自分の気持ちがどんどん高ぶってくるのがわかるんで、いつもやってましたね。試合前だけじゃなくて、普段の練習から気持ちを高めていかないと練習に身が入らないというか、試合に向けての練習って感じがしないんですよ。
  そう言えば、こうして心理状態が高まると、幻覚っていうか、サンドバックが本当に対戦相手に見えてくるんですよ。

サンドバックが相手選手に見えてくるくらい気持ちを高めて練習する

――それは意識的に相手の姿を思い浮かべるようにしているんでしょうか。それとも無意識的にそうなるんでしょうか。

 自分では意識していませんね。普通の心理状態ではサンドバックを人には思えませんから、気分が高まるあまり、対戦相手に見えてしまうんじゃないんでしょうか。気持ちを高めていくうちに、ふとサンドバックが相手の姿に見えるんです。
  そして30秒くらい極限状態でサンドバックを殴り続けます。他の人が見たら、何かに取り憑かれてるって思うでしょうね、大丈夫か、こいつって感じで(笑)。
  この殴り続けるときも「○○、この野郎、くたばれ! 」って叫んでますよ。するとですね、僕の放ったボディーが効いてきて、相手選手が前のめりになって倒れ込んでくる姿が見えるんです。サンドバックがですよ。ふつうの人には不思議に思えるかもしれませんけど……。

――他に気持ちを高陽させるようなことはされていましたか。

 そう言えば、僕は努力して試合の夢を見ることができるんです。大学1年のころからなんですけど、しかも試合結果を夢の中でコントロールできるんですよ。その方法はですね、ノートに見たい夢の中での試合展開を書くんです。試合1か月前から始めるんですけど、最初の4回くらいは自分が負ける夢を見ます。まずは自分にプレッシャーをかけるんです。夢でも本当に悔しいんで「ちくしょう、負けてたまるか」って気持ちを高める。
  そして最後の3回くらいは勝つ夢を見ます。すると今度は目覚めたときに絶対に勝てるぞっていう自信が沸くんですよ。
  このことはジムのトレーナーも知っていて「おい、三谷。昨日の(夢の)試合結果はどうだった? 」って聞いてくるんです。そんなとき「もちろんKOでぶっ倒しましたよ」って答えてましたけどね(笑)。

対戦相手のイメージをVTRでつかんで、それを自分の試合イメージに結びつける

――相手選手のイメージはVTRなどを参考にされるんですか。

 ええ、試合前に、対戦相手をVTRで研究します。対戦相手が調子悪いときのVTRも見ますけど、そんなVTRばかり見てると知らず知らずなめてかかってしまうんで、それ以上に相手が調子いいときのVTRをたくさん見ます。そうですね、多いときは100回くらい見ます。そして相手の戦い方をしっかりイメージに焼きつけます。
  それ以外に自分の調子が最高のときのVTRを常日ごろ見てるんです。そう、大学時代の試合VTRや、プロデビュー2戦目のVTRですね。自分の試合なんで、そのときが一番調子がよかったってわかりますから。
  そのVTRを見ながら、倒すパターンやそのときのリズム、それに足位置などをノートに書き取ります。そしてそうした大切な要素をしっかりイメージに焼きつけ、イメージの中で繰り返しそのパターンやリズムなんかを反復させるんです。これは自分でもすごくいい方法のように思ってます。

日記をつけることで自分が今どんなことで悩んでいるのか、その原因が何なのかを明確にする

――三谷さんはノートに記録しておくことをよく実践されていたと聞きましたが。

 書くのが好きなんですよ(笑)。
  書くと言えば僕は練習日誌も自主的につけているんです。これには、細かい練習内容以外にも、心理的なことも記入しているんです。調子のいいときは、「いい調子だ。このままいけば大丈夫」とか逆に調子の悪いときは「いったいどうしたんだ。このままじゃだめじゃないか」とか。必ず1日の終わりには自己対話を行って、自分をほめたり叱ったりしています。それ以外にも自分の調子を5段階評価する日記をつけたり。こうしておくと自分の心のリズムもわかりますからね。
  それに僕だけじゃないと思うんですけど、スポーツ選手って、ストレスや悩みを感じるのは、スポーツの中だけじゃないですから。人間関係とか、マスコミとか、そういった環境からも大きな影響を受けるんで、何が今の自分の本当の悩みなのかを明確にしておくんです。そうしておかないと、いろんなストレスが重なって、悩みの本当の原因がわからなくなってしまうんです。

――そういった周囲からのプレッシャーって非常に強いストレスになると思うんですが、どのように解消されていますか。
 

  僕はすごいプラス思考派なんです。というよりも、何でもプラスに考えるように努力してますね。たとえば、僕がデビュー3戦目のとき、相手は15戦してる経験豊富な相手だったんです。このとき、データだけで見たらとても僕に勝ち目はないでしょう。これも自分でノートに図で書いて(笑)、僕のほうが若いし上り調子なんだって考えるんです。もう相手はピークを過ぎて下り坂だってね。僕の上昇している線と相手の下降している線の交錯しているところは、自分が大学時代に過ぎたっていう具合にね。それと、不安や緊張したときは今までやってきたことや経験を思い出して「俺ならできるよ」って思うようにしてきましたね。
  そう言えば、以前雑誌の取材を受けたとき、パンチのスピードが10段階で9の評価を受けたことがあったんです。それで僕はその記者を呼んで10に変えてもらったことがあります。「何で俺が9なんですか? パンチ力ならゆずるけど、パンチのスピードはゆずれませんよ」なんて言ってね(笑)。僕自身10だと思うから言ったんだけど、それくらい自分を信じて9を10に変えてやるくらいのわがままなプラス思考が大切だと思うんですよね。
  また、減量中は疲れて、顔色も悪くなるんです。そういうときに鏡を見ていると顔色が悪くて不安になるもんなんです。だから鏡を見る前は、自分の顔を手で何度もこすって血色をよくしてから見るんです。そのときニコッと笑って「よしっ! 今日も体調がいいし、乗ってるぜ」って声を出すんです。そしてコーチとかにも「顔色いいでしょ」って聞いて(笑)。そんなとき誰も「いや、悪いよ」とは言えないでしょ。こうやって自分に都合のいいようにプラス思考を行うんです。

集中力の持続時間を調べるために、乱数表を使ってチェックする

――試合前の練習時とか日常生活とかで意識的に集中力を高めるようなことはしていましたか。

 100の数字がアトランダムに分かれた乱数表を、100、99、98、というふうに3分間で消していくのをやっていました。これを3分、1分の休憩、3分というように試合と同じ流れで12R行うんです。すると12Rの中の集中力のリズムがわかるんですよ。僕の場合は、平均26くらいなのが4Rは15くらいで(笑)。すると4Rは集中力が切れやすいってことなんですね。これはもう克服しましたけど。
  他には針に糸を通すっていうのもやりました。これも3分間で針の穴に糸を通して、抜いてというのを繰り返して、やはり何回通せたかを記録につけていく方法です。これが結構やっててイライラしてくるんですが、集中力はかなりつきましたね。

試合会場に入っても体を極端に休めないで、常にテンションを高めておく

――その他に試合直前に心理面で気をつけてたことはありますか。

 僕は試合会場には3時間前に入るんですけど、体を横にしないようにしています。僕は横になっていると眠くなって寝てしまうんで(笑)。眠ってしまうと脳の働きが弱まって、沸々と高まってきている気持ちが萎えてしまいますから。それには気をつけてましたね。
  他にはボルテージを上げるために好きな音楽を聴いたりですね。その音楽を聴きながら自分でリズムをとったり、体を動かしたりすることで心のテンションを高めるように努めてきましたね。イスに座ってずっと体をダラーッとさせておくと、心なんかもだれてくるような感じがするんですよ。
  できる限り、体を止めないで動かしていました。それでいよいよリングに向かうときには「よっしゃ、いくぞ! 」と大きな声を出して、シューズで地面をどーんと蹴って、自分に最後の喝を入れてリングに向かっていましたね。

決まった音楽を聴いて、その音楽を聞く度に同じ気持ちになるように条件づけをする

――お話を聞いていると、常に試合中心の生活をしているって感じがするんですが、意識的に忘れようとしていたこととかありませんか。

 緊張したときには、試合のことを考えるのを意識して避けるようにしてました。そう、まったくボクシングとは関係ないことを、ボクシングのことを考える暇がないくらい熱中できることをするようにしていました。
  僕の場合はボクシング以外のVTRを観たり、知人や親、恋人などとボクシングとはまったく関係のない話をしたりとかですね。だからよく電話はしましたね。

――日常生活とか練習で心理面で他に注意してたことはありますか。

 高校、大学と通して赤色のジャージを着るようにしてきました。ジンクスじゃないけど、自分の調子がいいときになぜか赤色のジャージを着ていることに気づいたんです。赤色の効果だと思うんですけど、心がかきたてられるっていうか、燃えてくるんですよ。格闘技選手には向いている色なんじゃないですかね。 
  それに練習着には気を使ってます。上手に自己PRできるようじゃないと、強い選手にはなれないと僕は思っているんです。これは後輩たちにもよく言っています。
  ほかには、音楽を使って気持ちを高ぶらせていましたね。僕は朝と練習前に、決まった音楽を聴いて、そのときに対戦相手を倒したイメージをもつんです。それでイメージの中で「よしっ! 誰々をノックアウトした。俺はチャンピオンだ」って体全体を使って勝ったときの感情を体験するんです。ガッツポーズとかね。朝、目覚めて勝利の感触を味わって、練習前にも味わうんです。それを1か月くらい続けるんです。
  そうやって条件づけをすると、試合前に不安になったとき、その音楽を聴くことで勝利のイメージと勝ちの心理に導くことができるんです。

《高畑好秀著「メンタル強化バイブル」(池田書店 1999年)より転載》



メンタルトレーナー高畑好秀プロデュース