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柔道

吉田 秀彦 hidehiko yoshida

バルセロナ五輪78キロ級金メダリスト

1969年生まれ。愛知県出身。高校3年時インターハイ個人選で優勝。明治大に進学し、全日本学生体重別3連覇、世界学生選手権2連覇、アジア選手権優勝という輝かしい成績を残す。92年バルセロナ五輪78キロ級で6試合すべて1本勝ちし金メダルを獲得。96年嘉納杯国際柔道86キロ級優勝。2階級制覇は史上初。97年には母校である明大の監督に就任。98年全日本学生柔道で同校を優勝に導く。99年世界選手権90㎏級で金メダルを獲得、復活を果たす。

吉田秀彦

「練習で大切なのは目標設定ですね。
今の実力で届くか届かないかくらいの目標を立てることが大切だと思います」

練習時間と練習以外の時間のメリハリをつけて思い切り取り組む

――吉田さんは高校時代から輝かしい成績を残されていますよね。バルセロナ五輪金メダルはとくに印象的です。これだけの大試合を重ねていると、試合前に緊張を感じることはだんだんなくなってくるものなんでしょうか。

僕は小学校のときから柔道をやっているので、試合に関しては場慣れしていて過度な緊張というのはないですね。ただ 18 歳のときに日本武道館で開かれた日本選手権大会は、初めて出たビッグな大会だったので、畳に足が着いていないというか緊張で何が何だかわかりませんでしたね。

――そういった過度の緊張状態ではどのようにして気持ちを落ち着かせているんですか。

 僕の緊張解消法は、その大会を経験してその場の雰囲気を味わっておくことですよ。僕はバルセロナのときも、その前のソウル五輪のときに、古賀先輩の付き人として試合には出ませんでしたが、オリンピックの雰囲気を感覚的に感じられたのでバルセロナ五輪では緊張感はなかったですね。人って一度でも体験したことには慣れますから、自分が試合に出ない大会でも、将来のために何らかの形で参加して雰囲気を体験しておくのはいいと思います。

――そのほかに緊張解消法はありますか。

 イメージトレーニングというほどのものではないんですけど、試合前には寝る前にベッドの中で「こうなったらいいな」という自分が勝手に作った試合展開をイメージしていますね。1回戦の対戦相手もわかっているのでイメージの中で何回か相手を投げて一本勝ちしている自分の姿を描いています。それもイメージの中で、体験しておくことで本番のとき初めてという感覚をなくすためです。ただこのイメージも、何回やっても相手を投げているイメージが簡単に浮かぶときは優勝してるんですけど、その何回かのうちに自分が投げられてしまうイメージが浮かぶときもあるんですよ。そういう悪いイメージが浮かんでしまうと、何とかいいイメージを作ろうとするんですが悪いイメージが心のどこか深いところに残っている場合が多いですね。そういうときは心の状態が体に反映されて負けてしまいますね。バルセロナ五輪のときは、自分が相手を投げているイメージしか浮かびませんでしたが、アトランタ五輪のときはダメでしたね。

――では、試合のときに集中力を高めるために工夫されていることはありますか。

 試合のときだけ特別にすることはありませんね。やはり集中力というのは日ごろの練習の積み重ねですよ。僕の場合はいつも柔道をやるときと遊ぶときのメリハリをつけるようにしています。性格的に中途半端が嫌なんです。ゲームなんかをやってもクリアできないと頭にくるんで徹底的にやるんです(笑)。飲みに行っても次の日が練習休みだったら徹底的に飲むんですよ。だから柔道をやるときも「遊ぶときは思い切り遊んだんだから、柔道も一生懸命やろう」と考えますね。そうやって柔道に 100 %の力を注いで練習していれば、試合のときも自然に集中力が高まります。その時々でやっていることに目一杯の力を注ぐことが大切だと思いますね。

――普段の生活と練習とのメリハリをつけることで、練習に全力で打ち込むことができるというわけですね。では、練習のときに心理面で注意されていることとか、こういう気持ちで取り組んでいるということはありますか。

 僕は自分の気持ちはもちろんですが、周りの選手の気持ちを高めるためにも常に大声を出すようにしてますね。柔道の組み練習は、自分一人が全力を出しているだけでは仕方ないですからね。やはり練習相手にも全力を出してもらわないと。そのためにも自分だけでなく相手も心理的に乗せていかないとダメなんですよ。そのためにはときに、相手をカッカさせ本気にさせることも必要です。

 それと練習で大切なのは目標設定ですね。いきなり無理な目標を立てると、すぐに挫折感が生じますよね。だから今の実力で届くか届かないかくらいの目標を立てることが大切だと思いますね。自分よりはるかに強い相手と組んで練習するときも、最初から投げられません。だから最初は 10 回のうち、1回でも相手に膝をつかせてやるという目標を、次には1回でもお尻をつかせてやる、そして最後に 1 回でも投げてやるという段階的な目標設定をするわけです。ですから練習相手もいきなり手も足も出ない相手よりも、自分より少しレベルの高い選手から段階的に上げていくのがいいと思いますね。そのほうがお互いに力も僅差なのでレベルアップしますから。あまりに強い選手と弱い相手だと、強いほうは本気になりにくいし、弱いほうは歯がたたなすぎて嫌になりますからね。お互いに競い合えるというのは、心理面にも闘争心や負けたくないという気持ちを育ててくれますから。

常に目の前にある試合を目標にすることで前向きに取り組むことができる

――毎回こんな気合いを入れて練習をしていると、精神的にもかなりつらいことがあると思いますけど、練習が嫌になったり、逃げ出したくなることってありませんか。減量の苦しみもよく耳にしますけど。

 いや~、柔道をやめようなんて考えたことは何度もありますよ(笑)。好きな練習はトレーニング代わりにやるサッカーやケガしたときの水泳くらいですよ。これは心理的にもいい気分転換になってるんでしょうね。柔道の練習は本当につらいですね。だって練習が近くなると頭が痛くなりますから(笑)

 中学校のときまでは、試合をやっても結果は出ないし、練習はきついしで、本当にやめたくて仕方がなかったですよ。僕は名古屋の実家から一人で東京に柔道をするために出てきたんですね。だから、柔道をやめて戻ったら周りの人たちから情けない奴と思われるんじゃないかと自分で勝手にプレッシャーをかけてそのときは踏みとどまりました。

 それからバルセロナで金メダルを取ったときも、自分ではメダルを取るのが早過ぎたと思いましたね。自分の心も負けられないという気持ちが強くなって追われる立場のプレッシャーが大きくなったんですよ。それに周囲の人たちも勝って当然という目で見るわけですから、心理的に辛かったですね。だから今は階級を上げてまったくゼロから新鮮な気持ちで柔道をやることで、柔道そのものを続けていられるんですね。

――そういった周囲からのプレッシャーを自分の力に変えていくということですね。

そうです。それと、これも一種の目標設定の仕方だとは思うんですけど、とにかく目の前にある試合を常に目標にしてきたんですよ。そして気づいたらオリンピックがア終わっていたという感じです。だから僕にとって、オリンピックというのは心の中では一通過点という感じなんですよ。すべてではないんです。きっとオリンピックで金メダルを取ることが、僕のすべての目標だとしたら、バルセロナで燃え尽きていたんでしょうね。だから今も一つ一つ目の前の試合を目標に柔道を続けていこうと考えています。このように考えていれば、常に心の中で前向きに柔道に取り組んでいけますから。

 ですから、練習もやらされているのではなく、自分でやっているという意識は強くもっています。「どうせやるんだったら自分のために一生懸命やろう」と心に言い聞かせて取り組みますね。

――でも、時には練習に身が入らないとか集中できないことがあると思います。そういったときはどうされていますか。練習を最後まで続けられるほうですか、それとも中止するほうですか。

 毎日のように練習しているわけですから、心が練習に集中できないときもあるんですよ。そういうときは、ケガの原因にもなるし、そんな中途半端な気持ちでいくらやっても身にならないのでスパっとやめて心も体も休めるようにしてます。そうして休むことで、心も体も充実させて次の日に集中するほうが、ダラダラやるよりも効果的だと思いますね。

――減量中は肉体面はもちろんですが、心理面もスタミナが落ちるようなことってありませんか。

 はい、落ちますね。バルセロナ五輪のときは、2か月半かけて食事療法で 12 キロ体重を落としたんですね。パンの6ミリ切りとか、お粥と漬け物とか、そりゃあ腹減りますよ。水分もほとんど摂らないようにしてこんな生活していると心もイライラしてストレスがたまりますよね。そんな状態では長時間集中力を維持できないので、練習時間を思い切り短縮して、その時間内だけ集中してパッと練習して「もういい。これ以上やっても仕方がない」とスパッと練習を終えるようにしてました。減量だから仕方なかったんですけど、食事が体だけでなく心にも影響する大切なものだというのを心底実感しましたね。でも減量苦を体験したことで、我慢する心やきついことから逃げない精神力は鍛えられたように思います。

肉体的に追い込まれた状態から解決の発想法が生まれる

――他に練習するときの心理面で大切だと思われてる要素はありますか。

 そうですね、僕は性格的にやってませんけど、田村(亮子)は練習日誌などをマメにつけていますね。1人で練習しているときに対戦相手をイメージして技をかける練習をしている選手もいますし。

 僕の場合は、さっきの話と少し矛盾するかもしれませんが、自分よりもでかくて強い相手とやるのも自分の限界をうち破れる方法だと思いますね。「あれをやってもこれをやってもダメだ。でもなんとかしなきゃいけない」と心が究極の状態になったときに初めて心に解決の発想が生まれることがあるんですよ。僕の背負い投げは自己流なんですけど、こうした究極の心理状態から生まれたんですね。

それと、VTRでも、試合中でもいいんですけど、強い選手がどうやって技をかけているのかを目で見て、頭の中でその一連の動きをイメージして、実際体で覚えることが大切ですよ。本当に強い選手の真似をしてみるといいんですよね。最初はただの物真似でも、何度も繰り返すうちに自分の形になっていくものですからね。僕も当時、古賀先輩が無精ひげを生やしていたので僕も真似して生やしたりして外見から入っていきましたよ(笑)。

――調子が悪いときはどのように心理面を前向きにさせているんですか。

 試合のときは、自分の調子が悪いときほど、対戦相手の試合を見てしまいますね。調子のいいときは、他の選手のことはまったく気にならないのですが、悪いときは「ああ、あの選手はやりにくい選手だな」と自分の考えで自分の心を洗脳してしまうんですよ。でもそれにどっぷりとはまり込んでしまうときりがないので、冷静に戦術を考えるようにしていますね。そしてその戦術で残り1分半くらいまでは通します。

 僕は基本的に投げて1本勝ちする柔道を考えているんですけど、試合の流れの中で勝っているか負けているかわかるので、もし負けていると思えば、その残り1分半くらい前から戦術を変えて相手に反則させる柔道に変えます。つまり勝つための柔道に変えるんですね。日本人は技で1本勝ちをする柔道をしますけど、外国人はルールを使って反則を誘って勝つ柔道をするんですよ。僕も調子が悪いときは最初は技ねらいでいきますけど、決まらなければ気持ちを切り替えて勝つための柔道に変えるようにしています。

 それに「練習であれだけやってきたんだから、まだまだいけるぞ」と暗示をかけて、絶対弱った顔を相手に見せないように意識しています。これは自分の心の中の弱気を絶つ意味と、相手につけ入る隙を与えないという意味があります。やはり技術的に不調な分だ顔つきや目つきでプレッシャーをかけて心理戦では負けないようにと考えてますよ。

――試合途中で、ポイント的にリードしているときと、リードされているときとでは心理的に大きな違いがあると思います。それぞれどんな気持ちで試合を進められているんですか。

 リードしてるときは残りの時間が長く感じるし、リードされているときは短く感じますね。時間が長く感じるのは守りの気持ちで、短く感じるのは攻めの気持ちだからでしょうね。

 リードされているときは攻めの気持ちが焦りにつながるときもあるし、相手も僕の一本を注意して逃げるんです。それで、なかなか一本が取れないので、自分の心に余裕を持たせるためにも反則させるようにもっていきますね。

 逆にリードしているときは、逆に相手が捨て身で焦って反則をさせるようにしてくるので、守りの気持ちでいると受け身になって反則を取られやすいので、あえて「一本取りに行くぞ」と攻めの気持ちをもつように意識していますね。相手が焦っている分だけ一本取るチャンスもありますからね。柔道の場合こそ、攻撃が最大の防御だと思いますよ。やはり柔道は基本的に5分間常に攻め切れる心の強さを日ごろの練習から作っていく必要がありますね。

《高畑好秀著「メンタル強化バイブル」(池田書店 1999年)より転載》



メンタルトレーナー高畑好秀プロデュース