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レスリング

山本 聖子 seiko yamamoto

レスリング

1980年、神奈川県生まれ。父はオリンピックメダリスト、姉、兄もレスリング選手、母は審判資格を持つレスリング一家。97年アジア選手権優勝、99年世界ジュニア選手権51㎏級優勝。現在、日本大学に在学中。姉の美憂選手とともに世界チャンピオンを手中におさめた。聖子選手の特徴は、自分の緊張をうまく制御できることにある。また、自分の個性を十分に生かしたレスリングスタイルを確立している。

山本聖子

弱気にならない、消極的にならない、あきらめない

―山本選手といえば、姉の美憂選手と姉妹で世界チャンピオンに輝き、現在女子レスリング界を引っぱっている存在ですが、その山本選手から見てレスリングに必要なメンタリティーは何だと思われますか。

「私は、弱気にならない、消極的にならない、最後まであきらめない、という3つのことを大切にしています。前の2つは、似たような感じですが、自分よりも強い相手と対戦するときというのは、弱気や消極性が生じてしまい、ついつい後ろに下がってしまいがちです。相手に技をかけられたり、タックルされるのを無意識のうちに恐れて、つい距離をとってしまうということです。おそらくポイントをとられないレスリングばかりを考えてしまうと、守りの気持ちが強くなり、思いきって相手に飛び込んでいけなくなるのです。そのように守るだけでは相手にポイントをとられるだけですから、常に強気で積極的なレスリングを心がけています」

―その“強気で消極的な気持ち”をどのようにしてつくっているのでしょうか。

「試合のときだけ、そうしようとしてもダメです。やはり普段の練習のときから、疲れたときにももうひと踏んばりできる姿勢を身につけ、より積極的に取り組まなければなりません。試合中に、いくらポイントを奪われても、心身ともに集中力を持続できスタミナ切れも起こさずにいられる状態であれば、そのポイント差をひっくり返して勝つことができると思うんです。

ですからメンタルの基盤は、その自信を持てるかどうかだと思います。地道に、そういう努力を繰り返し、自分の限界を少しずつ打ち破っていくことが、さらには大きな自信につながっていくと考えています。そうして、あせらずゆっくり作り上げた自信というのは、少々のことでは崩れません」

―スポーツ選手の中には、日々の練習でついつい妥協してしまい、試合が近くなってからあせって自分を追い込む選手が少なくないようです。そのような付け焼き刃の自信はもろいし、体調を崩したりケガをする原因にもなりかねません。

「私もそう思います。私は日ごろから自分を追い込んでいますが、試合の3週間くらい前からさらに自分を追い込んで練習しています。かなり息の上がる練習量と内容です。そして試合の数日前からは、逆に練習量を落とすようにして調整を図ります。試合が近づいてまだ自分を追い込んでいるようでは、逆に不安の方が大きくなりますし、心が不安であせっているときに、いつも以上の練習をしてしまうと、集中力も切れやすくケガもしやすいと聞きます」

―試合の3週間前から、いつも以上に自分を追いこむことには、心理的な意味合いも多分に含まれると思われますが。

「苦しい練習をすれば、緊張やストレスも大きくなります。それを一度極限にまで高めておいて、試合前にはリラックスできるようにします。一度高まった緊張は、リラックスしても一気になくなるのではなく、弱まりながらも持続します。たとえば、極限の緊張が100だとすると、練習を軽くしはじめたときには80、それから日を追うごとに70、60と弱まっていき、試合当日は50くらいの緊張状態であればベストです。

実は私は、試合のときにある程度は緊張していないとダメなタイプなんです。緊張しているときには切れのある動きができ、なにか張りつめたものがあって、身体の神経も鋭く研ぎ澄まされている状態です。同時に私の集中力も高まっています。私は体験したことはありませんが、過度の緊張をすると逆に身体は動かなくなるのでしょうね」

いかに最後まで集中力を切らずに戦えるか

―おそらく山本選手は、練習の量や内容を変化させることで無意識のうちに緊張を上手にコントロールし、よくいわれる逆Uの字曲線の頂上(適度の緊張とリラックスのバランスがとれた状態)へと持っていっているのでしょう。他にも緊張を上手にかき立てる方法がありそうですね。

「今は階級を上げたので減量で苦しまなくてもすみますが、以前は減量しなくてはならず、減量に入った日から嫌でも試合を意識させられますから、体重に加わるストレスと試合に対する緊張感が測量日まで続くという状態でした」

―冒頭のお話の中にある、「最後まであきらめない」という心理についてお聞かせください。

「基本的には今までの話とつながっていますが、簡単に言えば、試合の最後まで集中力を切らさずに戦えるかどうかということです。試合終了の30秒くらい前になったときに、もしポイントを差で負けていたりすると、疲れもピークに達しているし、」気持ちの中でも『あと30秒しかない。ダメかもしれない』と思ってしまいます。心身のどちらかが健在であれば、まだ持ちなおせるのでしょうけど、どちらもダメになってしまうと『ああ、もう無理だ』となります。だから私は、そのようなときにこそ『弱気になるな、最後まであきらめるな』と、ひとりでブツブツ自分に言い聞かせるようにして暗示をかけています。

他に私が気をつけていることは、集中力の習慣作りです。たとえば、ポイントで勝っているときに迎えたラスト30秒時に、あえて集中力を切らし、油断して勝利したとします。このようなことが何回も続くと、ラスト30秒で集中力の切れるリズムが自分の中にできあがってしまいます。勝っているときに、そのようなことをしていると、負けているときでもそうなってしまいます。負けているときは、勝っているときに比べて、あせりやプレッシャーも大きいし、あきらめの心理も生じやすいので、集中力が切れてしまったら救いようがないですよね。だからこそ、勝っているときでもラスト30秒で攻めて気持ちをグッと入れて集中力を切らさないリズムづくりを大切にしています。」

頭に思い浮かぶイメージどおりに身体を動かす

―話は変わりますが、山本選手はイメージトレーニングなどを取り入れていますか。

「イメージトレーニングというよりも、イメージを使った練習は当然のように行っています。きっと、試合展開をイメージしながら練習していくというのが大切なのでしょうが、私の場合は自然に頭に思い浮かぶイメージどおりに身体を動かすようにしています。相手の身体を崩したり、フェイントをかけたり、あるいは技をかけられるような状況に陥ったりするときも想定して、どのような展開でそれを回避するかなども時には考えます。こうしたことは、できるだけ無理なくより自然に身体が動くようにしていかなければならないと思うので、それを練習で習得していくようにしています」

―そうしたことを自分のテクニックの面で生かされているということはありますか。たとえば、多くの選手はビデオ画像などを利用して、自分のイメージの中の動きと実際の動きとのギャップを感じとり、さらに練習や試合にフィードバックしているようですが。

「そういうこともしないといけないのかもしれませんが、今はそうしたことはいっさいしていません。私があれこれテクニックのことを考えているときというのは調子が悪いときで、自分の技に自信がないときなんです。考えながら動くとぎこちなくなってしまい、相手に動きが悟られやすいので、無意識に情報を分析し、直観的に行動に出ていくというのが理想的だと思います」

―そうした自動化された動きというのは、意識していない分だけ、あとで「いったい自分はどういう動きをしたのか」思い出しづらいものです。それを客観的に分析していく手法を選択している選手もいるようですが、山本選手はそうしていないと。ならば逆に対戦相手の分析をすることはあるのでしょうか。

「基本的に、ビデオなどで対戦相手を分析することはありません。もちろん、試合前にはある程度の情報、つまり相手のクセや得意技などをコーチから知らされます。私はそれで十分ととらえています。これはひとつには、対戦相手がどうこうというのではなく、自分が今までやってきた練習をそのまま試合で出せばいいという考え方です。

もうひとつは、あまり相手の事を研究し、考えすぎてしまうと、考え方が凝りかたまってしまうからで、それを避けたいのです。対戦相手の“虚像”にとらわれ、逆に本来の自分の動きがとれなくなるということが往々にしてスポーツにはあるように思えるのです。以前、ある大会で、いろいろな人から『今度の対戦相手は強いからね』と聞かされていて、その対戦相手と対峙したときに、最初のうちは自分から積極的に仕掛けられず、受け身になってしまったことがありました。しかし組み合っているうちに、『それほどでもないな』という気持ちになり、そこからようやく攻めはじめることができました。そのときに、先入観はマイナスに作用してしまうと怖いなと感じました。だからこそ、必要以上に相手を意識しないようにしています」

噂や過去に惑わされず実力を出しきることが重要

―初顔合わせだったわけですね。ところで、何度か対戦している選手にはどうでしょう。

「選手というのは極端にいえば昨日と今日とでも実力は異なってくるものです。これは、いい意味でも悪い意味でもです。ましてや前の対戦が何ヵ月、何年も前だとすると、その時点から今日までの道のりの中で相手も自分も変化しているはずです。もし以前は負けた相手でも、今では自分のほうが力をつけているというケースもあるかもしれません。あまり噂や過去の記憶にとらわれないようにして、現地点での実力を出しきることを大切にしたいと考えています」

―対戦相手によって一喜一憂しない安定した心の状態を保ちながら試合を迎えるのでしょうね。そんな山本選手でも試合前にはどうしても不安になったり、過度に緊張したことはあったのではないですか。

「世界選手権など大きな試合の前夜にはチーム全員がかなり緊張してしまうものです。でも、『あんなに苦しい合宿をして、こんなにも練習している国は私たち日本選手以外にはない』と仲間で励ましあって乗り越えてきました。世界一になれるほどの実力の選手でさえ不安になるんだと改めて知ったことで、逆に安心したりもしました。どうやら他の選手も、『聖子までも……』と思っていたという後日談があるのですが。

 また、日本のレスリング界というのは、世界の中でも強いというイメージを持たれているようです。ですから、その中にいる自分たちがこれだけ不安なのだから、他国の選手たちは今自分たちが感じている以上に不安なんだろうなと考えたりもしました。このように相手の心理を考えてみると多少気が楽になります」

―ロールプレイング法で相手の立場で考えてみるということは大切ですね。それをレスリングでの心理戦に活用することはありますか。

「たとえば、私は相手が試合中に疲れた表情を見せると、気持ちのうえで『あともうひと息だ。一気に攻め込んでやろう』と考えます。でも、きっとそれは相手も同じはずです。だから、自分がどんなに疲れていても、場外に出たときには素早くセンターに戻り、疲れを表には出さない努力をしています。そして、常に相手を見下しているような余裕のある表情を心がけています。もしギリギリで勝てたと心では思っていても、あたかも余裕の勝利のように振る舞うことで、相手には『ずいぶん実力差がある』という強烈な印象を与えることができると思うのです。この表情は、中・高時代は意識的につくるようにしていましたが、今ではそれがすっかり板についたようです」

オリンピックメダリストの父だからこそできる指導法

―ところで、山本選手のレスリングスタイルの原型をつくられたのは、お父さんであると聞いていますが、お姉さんの美憂さんとともに2人の子どもを世界チャンピオンに育てるというのは非常に困難なことだと思います。実際にはどのような指導を受けてきたのでしょうか。

「“親子だから”というのが最も大きなポイントですね。私は、しかりつづけられるとしょげてしまうたちで、逆にほめられると気持ちが乗るタイプです。そういう性格を指導者である父親はすべて知っているわけですから、指導者と選手との関係は最初からできているのです。たとえば、同じしかられるのでも、他人から言われるとムカッとくることでも、親子の関係であれば自然に流せますし、根に持つようなこともありません。

また、長所の伸ばし方についても、この技に関しては右に出るものはいないというくらいに徹底して指導してくれました。レスリングスタイルに関しては、私は身体が大きくて硬く、姉は比較的に小さくて柔らかいので、その特徴に合わせた戦い方というものを考え、習得に必要な練習やトレーニングを指導してくれました」

―最後に、姉の美憂さんから学んだメンタリティーや、これから学びたい点というのはありますか。

「姉はひとりでも自分を追い込むことができ、それがとても自然体でできる選手です。私はどちらかといえば、一生懸命気持ちを盛り上げていくほうです。それに私は末っ子なので、気が弱いところがあり、ついつい周囲に自分を合わせようとするところがあります。最近はようやく『試合が近いのでペースを落とします』と部の練習とは別に、自分から調整できるようになりましたが、以前はやはり遠慮するほうでした。

また姉は、私よりも筋力が弱いのですが、少しの力を最大限に生かせる集中力やテクニックを持っています。効率よく自分の筋力を、出したい瞬間に100%発揮できるところは学びたいところです。私は多少筋力に恵まれている分、ついついそのパワーに頼りがちですが、姉の集中力の高さも見習っていきたいです。そのためには、日ごろの練習で最初から最後まで同じペースで行なうのではなく、ポイントをいくつか決めておいて、そこで最大に集中力と力を発揮できるようにしていくとよいのかもしれません」

《高畑好秀著「成功するメンタル改造術」(主婦の友社)より転載》



メンタルトレーナー高畑好秀プロデュース