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バレーボール

多治見 麻子 asako tajimi

バルセロナ五輪、アトランタ五輪女子バレーボール日本代表

1972年生まれ。東京都出身。東京五輪のバレーボール最終合宿候補であった母親の影響で小学校6年生からバレーを始める。三鷹第二中の3年のとき、第1回さわやか杯オリンピック有望選手に選出。87年バレーボールの名門・八王子実践高に進学、同校バレーボール部のエースに。89年17歳以下の選手で編成される世界ユース選手権で3位入賞に導く。92年にバルセロナ五輪代表、96年にアトランタ五輪代表に選出される。ポジションはセンター。

多治見麻子

「チーム全体の雰囲気を盛り上げるために私のほうから積極的に話しかけるようにしていますね」

試合前にチームメイトと試合とは関係ない話をすることで緊張をほぐす

――多治見さんは中学校時代からチームのエースとして活躍されてきましたが、そういう立場にいるとふつうの選手にはないさまざまなプレッシャーがあったと思います。そういった緊張状態を解消するような方法があったら教えてください。

 私は小学校のころからバレーボールを続けているので、緊張することに慣れているというか、力が出せないほど緊張を感じることはありませんね。ただオリンピックやワールドカップに出場する場合は、いつもの試合より緊張します。いつものリーグ戦はある程度慣れているんですが、世界的な大会になると一敗の重みが違うせいだと思いますけど。
  だから試合前は一人になって音楽を聴きながら落ち着きたいと思っているんです。そのときは、意識的に何も考えないで音楽に集中するようにしています。緊張しているときって私の場合何を考えてもマイナスへマイナスへいっちゃうんですよ。私はこういうときに考え始めると、どん底までいって、バレーをやるのも嫌になるんですね。考え出すと、もう止まらないって感じで(笑)。だから自分でふとマイナス思考になっているなと気づいたときは、これから始まる試合のことよりも、今までやってきた練習のことを考えて「あれだけ練習をやってきたんだ。今までやってきたことを全部出し切ろう」と思うようにしてますね。

――日立ベルフィーユのキャプテンや全日本のけん引役として活躍されていますが、チーム全体の緊張をほぐされたり、志気を高めたりするような工夫はされていますか。

 バレーボール選手にもいろいろいますからね。試合前に人としゃべっていないと落ち着かない選手もいるんです。私は自分のこともそうですが、チーム全体の雰囲気を盛り上げなきゃいけないと常に思っています。だから個人的には、一人で音楽を聴いているのがベストなんですけど、全体のことを考えて私のほうからも積極的に話しかけるようにしています。そのときは、試合のことを話すと余計にナーバスになるので、まったく関係ないような話をするようにしてますね。でもここが難しいんですけど、この他愛ない話もあまりやりすぎると若い子たちは、緊張状態から一気にリラックス状態になって、思い切りはしゃいじゃうんですよ(笑)。そうなると今度は試合のとき集中できなくなってしますんですよ。

――緊張しすぎても、リラックスしすぎてもいない適度な緊張状態が必要ということですね。

 ええ、その通りですね。適度に緊張していると自然に集中力も高まりますからね。だから私は、最初ガチガチに緊張してるなと思ったらあえて声をかけるようにしていますが、それがだんだん度を越してきたなと思ったら一人その輪から離れて自分の世界に入るようにしてるんですよ。そうすれば、若い子たちも自然に気づいてくれるんで。ずっとその輪の中に私がいることで、私個人も気が抜けてくるし、他の選手も気が抜けてしまうんですね。そうなってしまうと、それがチーム全体のその日の雰囲気になってしまいますから。だから緊張とリラックスのバランスには十分に注意を払うようにしています。

短期間有効のジンクスを設定することで負けを引きずらないようにする

――では、ジンクスとかは気にされるほうですか。

 最初からそれをやって試合に臨むというのはありませんね。でも昨日は右足からシューズを履いて勝てたから今日もそうしてみようという短期的なジンクスはありますよ。そうすることで「今日も勝てるような気がする」と思えますからね。これは心理的にもプラスだと思います。短期的というのは、負けたらすぐやめて違うものに変えられますから。そうすることができれば、負けも引きずらなくてすむし、新しいゼロからの気持ちで試合に臨めますよ。
  それと自分が不調のときには、調子がよかったときのことを思い出して同じような生活スタイルや練習スタイルにしてみようということもあります。そうすることで心理的に「あの調子がよかったときと同じなんだ。だから大丈夫」と自己暗示をかけるための理由づけができるようにしてるんです。

――これもジンクスの一つかもしれませんが、好きな試合会場、嫌いな試合会場というのはありますか。
  そんなに気にしてはいませんが、やはりよく勝っている会場は、試合をやる前から「よし。今日は勝てる会場だから安心して思い切りプレーしよう」と思えますね。だから緊張もあまりありません。でもよく負けている会場だと「この会場はあまりよくないぞ。嫌だな」と心の中でついつい思ってしまうこともあります。でも心の中でそう思ってしまうと体も思うように動いてくれないものなんで、できるだけプラスに考えるようにしています。「今まで負けたのは偶然なんだ」とか「そうそう同じ会場で負け続けられるものでもないし、次こそはそろそろ勝つ番だよ」とか考えるようにしてますね。

自分のチームを客観視することでチームの弱点を分析し、相手の戦法を考える

――では、試合前にVTRを利用されることはありますか。

 ありますよ。チームで見るためのVTRと、個人用のVTRと2種類あるんですが、チームで見るためのVTRはチーム全体の雰囲気をよくして、いい試合ができて勝てると全員が思えるようなものです。過去の試合の中で最高の勝ち方をしたVTRを見ることで「自分たちはこんな勝ち方ができるんだ」という心の中に勝ちイメージを作ることが目的です。
この試合のVTRは、イメージ作りが目的なので対戦相手が次の試合の相手でなくてもいいんですよ。もちろん、対戦相手の研究のために見ることもありますけどね。
  自分用のVTRは、自分の好プレー集のようなものです。こっちのほうは通常試合の前に見るというよりは、自分がケガをしたり、スランプになって自信を失いかけたときに見るようにしてますね。そういったときには新聞や雑誌などで自分が取り上げられているものを見るようにしています。そういった記事を見ていると「自分は最高のプレーヤーだ」と心の中に勇気や自信が湧き上がってくるんですよ。

――試合前に対戦相手のVTRを見られるときは、戦術などはどのように考えられるんですか。

 まずは、VTRを見て対戦相手の攻撃パターンや打ってくるコースはどこが多いかなどの情報を収集します。そして自分たちはそれに対してどういう戦法を取るのかをミーティングで話し合いますね。これがチームで行う戦術の立て方です。
  私個人でもあれこれ考えるんですけど、そのときは相手チームの立場に自分自身をおいて考えることがあります。私が日立と戦うとしたらどういう攻め方をするだろう、とか自分が多治見のブロックをすり抜けるアタックを打つとしたらどう打てばいいのかなどと客観的に分析し戦術を練ります。そうするとチームの弱点や私個人の弱点も見えてくるし、相手が仕掛けてくる戦術もわかってきますね。そうしてチームで見たVTRの内容と自分自身が考えた戦術を照らし合わせてみるんです。本当に相手チームには、自分たちの弱点をついてくるだけの技術があるのかどうかとか相手がこう攻撃してくれば自分たちは苦しい戦いを強いられるんだけど、その攻撃の仕方は相手のパターンと違うな、とかいろいろ考えますね。そうして考えた末の一つの勝ちパターンを心の中でイメージするようにしていますね。

――その勝ちパターンのイメージは、ほぼそのイメージ通りの試合展開になりますか。

 だいたいイメージ通りの試合展開になりますね。そうなると一回イメージの中で体験している試合展開なので気持ちも楽ですし、「予想通りに相手も攻めてくるな」と次に相手がやってくる攻撃も手に取るようにわかるんですよ。
  でも、もちろん予想イメージと違った場合もあります。そのときには、心理的にかなり動揺しますね。「えー、まったく違うじゃない」とすごく焦ります。だから私は、一つこれだと確信できる予想イメージを強く描く以外にも、いくつかの予想イメージも作っておくようにしてますね。心の中に一つしか用意してないと違ったときに困ってしまいますけど、いくつか用意しておけば、タイムを取って気持ちを入れ替えて戦術を考え直すときも楽ですからね。

強豪な相手には自分たちの力がどれだけ通用するのかを試すつもりで臨む

――全日本チームの対戦相手として、キューバなどの強豪チームが多いと思うのですが、試合前や試合中でどのような心境なのですか。

 技術的にも体格的にも相手が上ですからね。正直言って「勝てないよな」という気持ちが湧いてくることもあります。でもその気持ちに支配されてまずいと思ったら、本当に勝てなくなってしまいますからね。だから挑戦者の気持ちでいるようにしています。少しミーハーな気分で「キューバと対戦できるのはうれしい。滅多に対戦できる相手でもないんだし」と考えるようにしたり、「相手は世界一強豪のチームなんだから、やるだけやってみよう。全力を出し切ればいいじゃない」と開き直ってみたりしてますね。試合中もフェイントを使ったりして一つのプレーが決まると「世界一のチームから1ポイント奪えたよ」と心の中で喜ぶようにしてますね。点を取られることではなく、点を取れたことに意識を向けることで「点は取られても、自分たちも点を取ればいいんだ。力と力では負けるけど、フェイントも決まったし工夫すれば点は取れる」と前向きに考えていけますから。もし、相手が全日本チームに対して守りの気持ちでいれば、こっちは前向きに挑戦者の気持ちでガンガン夢中に攻めていけば、勝算も出てくると思いますね。
  それと、もう一つ大切な考え方としては、勝たなければいけないと思えば心の中も苦しくなってきますけど、今まで自分たちがやってきたことがキューバ相手にどれだけ通用するのか試してみようくらいの気持ちをもてば、心の中も伸び伸びしてきますよ。

ミスしたときには意識的に心を攻撃的にする

――では逆に、ミスしたときはどのように気持ちを切り替えられるのですか。

 バレーボールの場合、サーブレシーブに心理面が思い切り出ます。ブロックもトスもアタックもすべて瞬間的な動作で、体が勝手に反応するので、ミスの後遺症はあまり出ません。でもサーブレシーブだけは、ボールがゆっくりと来るのを長く見ているので、心の中に考える時間ができてしまうんですよ。「さっきミスしたからまたミスしそうだな」って考えてしまうと反応が遅れてまたミスしてしまいます。そうすると相手もその辺の心理をついてサーブを打つとき狙ってきますからね。そういうとき私は「来るなら来てみろ、もう一回来てみろ」と意識的に心の中を攻撃的にするようにしています。
  それとミスして心が萎縮するとプレーが小さくなったりしていることが多いので、あえて意識して動きを大きくしたりもしますね。また弱気になってしまっていつもならスパイクを打つケースでフェイントで打ったりもしてしまうので、あえてそういうときには思い切ってスパイクを打つようにしたりして工夫していますね。

――気持ちを攻撃的にすることによって、思い切ったプレーができるようになるんですね。

 バレーボールはリズムのスポーツだと思うんですよ。これは体の動きも心もです。だからミスして落ち込んでいるときも、ボールをさわらない状況にあってもスパイクを打つ選手のフォローに動いたり、他の選手がスパイクを決めてグルグル走って「ワーッ」と声を出して喜んでいる輪の中に積極的に入ったりします。その輪の中で、ミスした気持ちを引きずって心が乗り切れていない自分に気づかされて切り替えなきゃと思うこともたびたびありますね。ミスしても、とにかく心と体のどちらかのリズムも崩さないことを心がけていますよ。

――最後になりますが、日ごろの練習で心理面で気をつけられていることを教えてください。

 そうですね、自分の調子の悪いときは心の中にその悪いイメージが焼きつかないように、練習を途中で切り上げられるといいんですけど。ただバレーボールは集団スポーツなので自分だけ先に抜けるというのは難しいんですよ。そういうときは、もしスパイクが不調だとするとスパイクの練習だけ参加せず、一人離れているようにしたりしていますね。それか、もう徹底的に調子が戻るまで何十本と打つかのどちらかです。いつも通りの本数だと、心の中が中途半端というか、調子悪いまま終わってしまうので「自分はやはりできないのかな」と不安を残したまま終わることになってしまいますから。
  日本ではどんなスポーツもそうだと思いますが、毎日の練習ノルマを消化するということが精神安定剤にもなっていると思いますけど、勇気を持って休むことが逆にスランプを防ぐということもあると思いますよ。

《高畑好秀著「メンタル強化バイブル」(池田書店 1999年)より転載》



メンタルトレーナー高畑好秀プロデュース