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卓球

渋谷 浩 hiroshi shibutani

バルセロナ五輪、アトランタ五輪日本代表、

1967年生まれ。東京都出身。熊谷商高時代、インターハイ2年連続三冠王に輝く。その後明治大学に進み、日産自動車に入社。92年バルセロナ五輪に出場。96年アトランタ五輪ではダブルス5位入賞。世界選手権の代表には過去7回選抜され、97年大会ではダブルスで3位に。また、同年スウェーデンオープンでもシングルスで第3位に。右利き・シェークハンド・カット主戦型。球質の重さとパワフルなプレースタイルには定評がある。

渋谷浩

「試合展開をイメージして、気がついたことがあったら
戦術ノートに書き留めておくようにしています」

「これだけの観客に自分の最高のプレーを見せよう」と自分に言い聞かせる

――渋谷さんは海外で試合をされることが多いですよね。よく日本人は海外の試合に弱いと言われますが、渋谷さんはどうですか。

ヨーロッパの選手なんかは体格も大きくて、練習ではすごいスピードボールをバシッ、バシッて打ち合っているんです。もうすごい迫力なんですよ。でも、見た目には本当に強そうに見えるんですけど、卓球の場合は練習には強い選手というのが結構多いんです。だからそんなときは「強そうに見えるけどまあ、練習のときだけ強い選手なんだろう」(笑)と自分を安心させます。

――試合前には対戦相手の練習をよく観察するんですか。

自分は対戦をする相手の練習や試合を観察して、相手をしっかり分析するようにしています。対戦相手のことがわからないと、僕の場合は不安感が増して緊張は大きくなるんですよ。もちろん、相手を見て「ああ、強そうだな」と思って余計に緊張することもありますけど(笑)。

――そういったときの緊張解消法として、何か工夫されていることはありますか。

 僕は試合での緊張レベルが高いというか、非常に緊張しやすい性格なんです。だから緊張してきたときは「ほかの選手よりも多く練習をやってきたんだから負けるはずがない」と自分に心の中で語りかけるようにしています。

 ゲーム開始前に2分間練習時間があるんですが、その前に台の前に立って周囲の景色や観客を見渡すんですね。そのときは、下を向かないように堂々とするように心がけています。そして心の中で「これだけの観客に自分の最高のプレーを見せよう」と自分に言い聞かせるようにしています。

試合前には自分一人の世界を作り意識して人と話さないようにする

――試合に突入してからは、どうでしょうか。たとえば、緊張で体が固くなってしまっていつもの動きができないときは、どのようにされていますか。

 卓球の場合、試合中5ポイントごとにタオルを使うことが許されているんですが、緊張しているときは手の平にいっぱい汗をかくんで、そのときにタオルで手を拭き、軽い深呼吸をして高まっている気持ちを静めるようにします。

 そしてポイントを稼ぐ次の戦術や作戦を考え、頭の中で一瞬の間なんですが、その作戦が成功しているイメージを描きます。そうすると心の中に「ヨシッ、大丈夫。いける」っていう気持ちが沸いてくるんです。

――試合前、集中力を高めるために工夫されていることってありませんか。

試合前には、人から離れて一人になるようにしていますね。卓球選手の中には、ウォーミングアップのときもお互いにわいわい話しながらやっている選手も多いんです。でも僕はそんなに器用なタイプじゃないんで、試合前にはとくに自分一人の世界を作り意識して人と話さないようにしているんです。

 試合中の、とくにトーナメント戦のときに最初に当たる選手は明らかに力的に見て僕より弱い相手なんです。でもその試合で気を抜くと、後の試合で集中力が高まりづらいので、弱い相手と戦うときでも気を抜かず決勝並みの集中力をもって戦うようにしてますね。そのためにも相手の力に合わせるのではなく、戦術も決勝を想定して最初からやっています。

流れを変えるために意識的にタイムをかけて自分のペースで試合を進めるようにする

――1回戦からそんなに気を入れていると、後半集中力が鈍るようなことってないですか。

 集中力が欠けているとき、僕の場合は足の動きが悪いんです。それとボールに対して目がついていかないんですね。そういうときは、ラリーの中に捨てポイントを作るようにしているんです。卓球は3セットで勝てばいいわけですから、目先の1ポイントよりも、それを捨てても集中力を高めたほうがいいんです。

 だから自分のペースで相手を動かすのではなく、相手のペースで打たせて自分の足をたくさん動かすんです。そうやって足を一生懸命動かし、相手の打つボールを必死で見ていると気づいたら集中力は高まっていたということが多いですね。あえて自分の体にムチを打つという感じです。

――1つのミスで試合の流れが変わる場合もあると思うのですが、どのようにしてミスから気持ちを切り替えるのですか。

1本のミスプレーで「しまった、まずい」と思い、弱気になって逆転負けをすることは卓球ではよくあります。そういうときの選手の心はミスをずるずる引きずってしまって相手のペースに完全に飲まれているんです。そういうときに僕は、手を挙げてタイムをかけるようにしています。ミスした後も途切れることなく試合を続けていると、気持ちを切り替えることもなく、余計相手のペースにはまってしまうからです。

 ミスは、自分にはマイナスの気持ちを生むし、逆に相手にはプラスの気持ちを生むので、相手からしたらプラスの勢いに乗りたいと思うでしょう。だからタイムをかけてその流れを止めるようにします。僕はあくまでも相手のペースではなく、自分のペースで試合をするように意識しています。それにできるだけ相手を優位に立たせないためにも、ミスしても心の動揺を顔の表情に出さないようにしていました。

1セット目を取られたら、戦略を変更することで新たな気持ちで2セット目に臨む

――他に試合中に心がけていることってありませんか。

 僕は基本的に1セット 21 点のトータルで勝てればいいと考えているんです。卓球は少なくとも4回サーブ権が交代するんで、 21 対 0 で勝つことなんてほとんど不可能です。だから、競って勝つものだと思っていれば気持ちも楽ですし、ミスはするものだと考えるようにしてます。

 僕は相手にサーブ権があって自分がレシーバーのときは5本中、2ポイント取れればいいと思っています。逆に自分にサーブ権があるときは、3、4ポイント取れればいいんだという感じです。こう考えれば、レシーブの立場になったとき、相手にポイントを奪われても強い気持ちになれますよね。心の中に余裕を持たせておくわけです。

――卓球のようにセット制の競技だと、第1セットを取るのと取らないのとでは、気持ちのゆとりとか、プレーの仕方が変わってきたりしませんか。

 やはり先に1セット取られると、心理的にがっくりきて落ち込みますよね。でもそんな気持ちで2セット目を迎えられませんからね。まずは1セット取られた原因を考えます。その原因を含めて、戦略を変えてプレーの仕方も変えます。そうすることで2セット目を新しい気持ちでも迎えられます。そして、開き直りも大切でしょうね。

 そういえば、思い出に残る開き直りが昔ありました。世界選手権大会でのことなんですけど、相手に1セット先に取られて落ち込んでいたんですね。そのとき、全日本の監督に「あの相手には統計的に見て先に1セットやらなければ勝てないんだ」って言われたんですよ。僕は単純ですから「なんだ、そうなのか。先に1セット取られてよかった。これで勝つことができる」って開き直れて勝てたんです。今思えば、監督は僕を励ますために、もっともらしいことを言ったんでしょうけど(笑)。

――逆に自分が先に1セット目を取ったときの心の状態はどんな感じですか。

もちろん、ほっとします。でもこれが落とし穴になったりもするんですよ。とくに1セット目を大差で簡単に取ったときなどは要注意です。自分では気を抜いていないつもりでも無意識のうちに油断していたりするんですね。それで2セット目で5対5とかで、競り合いになってくると「あ、まずいよ」と不安になるんです。先ほどもお話したように、卓球は競って勝つものだと僕は考えているんですが、1セット目の感覚が残っていて、それと2セット目の戦いを無意識に比較してしまっているんでしょうね。これには注意が必要だと思います。

意識的に声を出して相手に根負けしないようにする

――競り合いになったとき、何となく弱気になったりすることってありませんか。そういったときに相手のペースに引きずられることが多いと思います。そんなときってどのように気持ちを切り替えているんですか。

 ええ、それはありますね。そんなときは声を出すようにしています。僕は守備型の選手なんですが、「相手に根負けするな」と声に出して自分のプレースタイルの基本線を自分に言い聞かせたりしますね。それに「楽してセットを取ろうとするな」なんて、ラリーを終えてボールを拾いに行くときに小さな声で言ったりしています。これは僕にとって大切な確認作業なんですね。心の中だけで考えていると無意識の部分がでてきますが、声に出して自分の耳で聞けば嫌でも意識できますからね。

――ところで、普段の生活でどのようにして試合に向けて気持ちを高めているんですか。

 そうですね。僕がよくやるのは、表彰台の一番上にたってメダルを首に下げ、観客に手を振っているイメージを描きます。それから涙を流しながら優勝インタビューを受けている自分の姿を強くイメージするんですね(笑)。

 だいたい試合前にこうやってイメージすると、ジーンときてやる気が沸々と湧き上がってくるんですよ。そのときはあまりにリアルにイメージするので、全身鳥肌が立ってますね。ここまで気持ちが高められると、体が疲れていても心がカバーしてくれて疲れを忘れてプレーできるんです。

――渋谷さんは、いろいろな面でそういったイメージを活用されるんですか。

 試合前にはイメージトレーニングをやりますね。自分が対戦相手と戦っている映像をまるでテレビで見ているかのように心の中に描きます。その中でも、相手とラリーして次々に自分が得点するイメージをもつようにしていますね。そうやってイメージの中で試合をやっていると、ふと、こういうプレーをすると相手が嫌がるだろうなとかこういう展開でいけば点が取れるだろうと気づくことも多いんですよ。

 こうやって気づいた点は放っておくと忘れてしまうのですぐに戦術ノートに書き出しておくようにしています。このイメージトレーニングは寝る前や夜中に目が覚めたときに行っていますね。どうも僕の場合は夜中のほうがいいイメージを浮かべやすいようです。

――イメージ作りをするとき、VTRを利用されることはありませんか。

 初めて対戦する相手のときは、イメージを作ろうにも相手がどのような戦い方をするのかわからないので、作れませんよね。そういうときは対戦相手のVTRを見ます。僕は自分の戦術はイメージの中で考えるんですよ。だから相手の戦い方を、自分のイメージの中にVTRから移します。その中で自分と相手を戦わせてみて戦術を考えていきます。論理的に戦術を考えるより、イメージの中で映像的に考えるほうが、成功する場合が多いですね。その相手とは初めて対戦するのに、イメージの中で何度も戦っているので初めてという気がせずリラックスもできますし。

 でもいよいよ試合というときは、あれだけ考えた戦術を一応白紙に戻します。イメージの中での戦いに固執し過ぎると現実に戦ってみて違ったときに動揺してしまいますから。生身の相手というのはどうやって攻めてくるかは実際にやってみないとわからないですからね。

 ほかには、自分の調子のいいときのVTRを見て、自分のいいプレーも戦術ノートにメモしておきますね。調子がいいときのVTRを見ると自信も沸いてきますから。

――上手にVTRを活用されていますね。今お聞きしたこと以外にも活用法はありますか。

 そうですね。自分の試合のVTRを見るときなどは、あるプレーで右に打って決まったとします。それを見ながら決まった、決まったと喜んでいるだけでなく、もし左に打っていたらどうなっていたんだろうと、その後の展開をイメージの中で予想するようにしています。一つのプレーを見て終わりにはしませんね。そこから何通りもイメージの幅を広げていけば、イメージの中とはいえ、経験数を増やしていけますから。そうやって気づいた点も戦術ノートにメモを取ります。

 1のことからそれを 10 にも 20 にも増やすくらいの積極性がなければ、経験数は増えていかないと思いますね。実際に体験できる経験数は限られていますから。面倒くさいかもしれませんが、それが自分の財産になっていくと思いますよ。

《高畑好秀著「メンタル強化バイブル」(池田書店 1999年)より転載》



メンタルトレーナー高畑好秀プロデュース