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バスケットボール

佐古 賢一 kenichi sako

元バスケットボール日本代表

1970年生まれ。神奈川県出身。深谷小のころからバスケットボールを始める。その後中央大法学部を卒業し、93年いすゞ自動車に入社。94年広島アジア大会に出場し、銅メダルを獲得。95~98年度日本リーグではベスト5に選ばれ、95、96年度には2年連続MVPに輝く。98年10月のアテネ世界選手権では日本代表に選出。99年にはISUZU GIGACATSを日本リーグ4連覇、同年1月の全日本総合選手権大会優勝とあわせ、2年連続の2冠達成に導く。

佐古賢一

「対戦するチームが勝ったときと負けたときのVTRを見て
相手が心理的に嫌がるゲームメイクを考えますね」

ゲームメイクの内容を監督やチームメイトに話すことで自信をつける

――佐古さんは小学校時代からバスケットボールを始めたとのことですが、今までに数え切れないほどの試合を経験されてきたと思います。そうなると緊張感が薄れてくるっていうことはありませんか。

 僕は結構緊張するほうだと思いますね。よく緊張を楽しむという人がいますが、僕はダメです。でも確かに試合当日は、試合会場に入ってしまえば緊張はあまりないんですよ。アップのときは体のことだけに意識を集中させられますからね。ただ試合前日は、あれこれ試合のことを考えてしまうので緊張が大きくなります。
  僕のポジションはポイントガードなので一番の仕事はゲームメイクなんです。だから、試合の勝敗を思い悩むというよりも、ゲームメイクのことをすごく考えてしまって緊張しますね。

――そのような状態のとき、佐古さんはどのようにして緊張を解消されているんですか。

 バスケットボールはチームスポーツなんで、基本的に他の選手がいるのは心強いというのはあります。ゲームメイクを考えていて不安になってくると、僕はメイクの内容を監督やチームメイトに話すようにしているんです。そうやって「俺はこう考えているんだけど大丈夫かな」と話すと、「大丈夫。自信をもってやれよ」と言ってくれるんですね。そう言ってもらうと、自分の考えを認めてもらって信頼されていると思えてリラックスできます。
  それと、自分に自信をもたせるために自分のいいときのイメージを何度も描くようにしていますね。悪いときのイメージだと一層緊張感が大きくなりますから。そのようにしても、夜に気持ちが高ぶって寝られないことがよくあります。

――トップレベルの方でも緊張で寝られないことがあるんですね。そんなときはどうされるんですか。

 遠征のときは、夜ホテルの庭を散歩したり、2時間半くらいかけてゆっくりと風呂に入ったりして気持ちをリラックスさせるようにしてますね。
  ほかには、とにかく一人になれる時間をいつもよりも増やすようにしています。試合前日は、他の選手も緊張でピリピリしてますから。それに緊張をお互いにほぐそうとバカ話を始めても、すぐに翌日の試合の話になってしまいますから。するといろいろと考えることになって、さらに緊張が大きくなってしまうんです。また、他の選手たちといるとゲームメイカーとしての自分の責任の大きさを嫌でも認識させられますからね。昼間にゲームメイクの内容を彼らに話し、リラックスできた状態のまま眠れればいいんでしょうけど、夜になると考えなくていいことをあれこれ考えるんで不安になるんですね(笑)。だから、試合のことを考えさせられる要素をできるだけ排除して、一人で試合とはまったく関係のない散歩や風呂で時間をつぶすようにしているんですよ。

一点を凝視することで試合前の集中力を高める

――では、佐古さんは試合に向けてどのように集中力を高められているんですか。

 家族がよく試合を見に来るんですね。それで試合前に会ってしまうと、試合以外のことに雑念が湧いてくるんです。だから絶対に知人たちとも会わないようにしています。とにかくゲームのことだけに集中したいので、試合前は一人になれる場所を探してゲームメイクだけに心を集中させ、ゆっくりとストレッチをするようにしています。
  ほかには、試合会場へ向かう車窓から、東京タワーのてっぺんの一点や、電柱の一点を集中してじっと見るようにしていますね。これは動いている車でやるわけですから、かなりの集中力が必要になるんです。それで、しばらく集中して一点をみつめた後は、視線を外して周りの風景全体を見て、また一点を見るというのを繰り返すんです。会場に入っても、体育館の屋根の頂上のネジを一点集中でじっと見たりして集中力を高めていますよ。これは目の集中だと僕は思ってやっているんです。一点を見て、視線を周囲の風景に移すというのは、バスケットボールの試合での目の使い方なんですね。パスを出すときは、相手のディフェンスのわずかな隙間を通さないといけないし、その後は味方の4人を含めた周囲の状況を把握しないといけないですからね。

――それでは、試合に向けてどのように気持ちを高められているんですか。

 そうですね、これはゲン担ぎのようなものなんですが、シューズを履くときも左から履き、コートに足を入れるときも左足からですね。僕のプレースタイルの8割は左足が中心になっていて、自分の中では左足はすごく大切なものという気持ちがあるんです。だから左足には特別のこだわりがありますね。これは暗示効果もあると思うんですが、大事な試合に左足から入ることで心の中で気持ちが引き締まります。
  それと、今から3年前のある試合のときに、いすゞ自動車の小浜監督から「お前らは自分のために戦っている。でもときには大事な人のためにも勝たなきゃいけないときもある」と言われたんですね。自分のためだけの満足だと、試合中苦しくなったときに「ああ、もう負けてもいいや」と妥協が入ってしまいますよね。人間の心は弱いものですから。でも大切な人、僕にとっては家族なんですけど、僕が妥協したプレーをして負けてしまって家族に恥をかかせられないと思うとグッと気持ちも高まるし、十分に力も発揮できますよね。

――そういった気持ちの張りが全力を出し切る力になるんですね。ほかに心理面で工夫されていることはありますか。

 自分の心の中では、常に自分たちは劣勢なので今度の試合は120%の力を出して勝ってやると考えるようにしています。いろいろな人から「今度の試合も勝てるんだろう」と聞かれるんですが、「わからないよ。相手は強いから」と答えるようにしているんです。「絶対勝てるよ」と答えて自分に余計なプレッシャーをかけたくないというのもありますけれど、相手は強いと口にすることでチャレンジャーの気持ちを維持できるという意味もあるんです。いすゞ自動車に対して相手チームは絶対に勝ちたいと攻めの気持ちをもって臨んでくるはずです。そんな心理は、相手に120%の力を出させると思うんですね。逆にそんな相手に対して、自分たちは勝者だと思っていると守りの気持ちを生み、100%どころか80%くらいの力しか発揮できなくなりますから。だから何度チャンピオンになっても、常にチャレンジャーの気持ちを失わないように強く意識しています。

ゲームの流れを切り替える時間を強引に作って気持ちも切り替える

――佐古さんはパス出しの名手と言われていますが、時にはパスミスされることもあると思います。そのときはどのように気持ちを切り替えているんですか。

 まず考えるのが、自分のミスを取り戻そうと気持ちをもっていきます。そして相手にパスミスさせるディフェンスを取ってやろうと切り替えます。実は僕は、試合をやっていると相手とのタイミングやフォーメーションを常に計算しているんです。だからインターセプトなんかも、やろうと思えばできるんですが、後半の勝負どころまで自分のやろうと思うプレーを取っておくんですね。それも途中は相手に悟られないようにまったく知らんぷりをしているんですよ(笑)。それに後半の最後くらいになると、相手も疲労から頭がボーッとしてきてフォーメーション通りに無意識のパスを出すんです。ここでさっとそのボールを奪い取るんですね。だから僕は、自分の犯したパスミス分を必ず取り戻せる確信のようなものがあるんですよ。

――それはしたたかなプレイですね。ほかにはそのような切り替え方はありませんか。

 そうですね、時間作りを考えるようにしています。同じパスミスでもコートからボールが出てしまうときは一回ゲームが切れるので時間が取れるんですが、相手に取られて逆速攻されるようなケースではゲームが流れているので切り替える時間が取れないんですよ。でも、ここで切り替える時間を自分で取れないと、ミスから生じるストレスでイライラしてきて、結果としてゲーム全体をぶち壊すような致命的なパスミスを次にまた犯すことになります。そのためにも、ポイントガードとして自分がプレーしなくてもいいフォーメーションを指示して、ゲームが流れていてもあえてその時間を作ります。そのときに考えるのは、自分の我というか、「プライドを捨てろ」ということです。そして、「チームで考えよう。ゲームに勝てばすべてチャラだ」と思うようにしています。ミスして動揺するのは、「あんなミスして格好悪いよ」という個人的理由ですから。

成功したプレーをVTRで何度も見返して心に焼き付ける

――佐古さんはVTRを積極的に活用されているんですか。

自分のプレーはほとんど見ませんね。でも相手チームの選手たちはVTRで研究していますよ。プレー自体を見ているというより、相手の選手たちのプレー中の心理的な面を見ていますね。「あのポイントガードは今、守りの気持ちでパスを出したな」とか「あの選手は今集中力が切れているな」とかですね。そして個々の心理の変化が生み出すそのチーム全体の流れのバイオリズムを見るようにします。次に対戦するチームのVTRを見るときは、そのチームが勝った試合と負けた試合の両方見ますね。このときも、「ああいう展開になるとあの選手は心理的に乗ってくるな」とか「あの選手がミスして落ち込むと全体的にムードが悪くなる」と心理面に主眼を置いています。そして相手が心理的に嫌がるゲームメイクを考えますね。

――自分のプレーはほとんど見られないということですが、見るときはどんなときなんですか。

 時々試合中に自分では無意識にやっているけど、いいプレーというのがあるんですよ。何人かのディフェンスを気づいたらスーッと抜いていたとか。そういうときは、「いったいどうやって抜いたんだろう」って考えるんですが、わからないんですね(笑)。何度も思い返してみるんですけどね。思い出せないというか、イメージが湧いてこないんですよ。VTRで見るとすれば、自分が無意識に行ったいいプレーぐらいです。でも、それを見るときはそのプレーを何度も見て心に焼きつけますね。VTRで見れば、こうやってこのプレーが成功したんだと理解できるので、イメージの中でもそのプレーの流れを何度も反復できるんです。そうやって無意識のプレーを意識的にできるようにして、プレーの幅を広げていきますね。

コートを真上から見るイメージで選手を動かしながらフォーメーションを考える

――イメージトレーニングなどはよく活用されるんですか。

 僕は、ゲームのシュミレーションを試合の4、5日前から考え始めるんですけど、そのときはイメージを使うようにしていますね。僕は、前半後半をそれぞれ前・中・後と分けてゲームのプランを立てるようにしています。それに合わせてフォーメーションを考えるんですけど、フォーメーション作りは、コートを真上から見下ろしている感じのイメージで、コートの中でいろいろ選手を自由に動かしてみますね。その途中で個人をズームアップでイメージして、練習のときの調子の具合や現時点での心理状態などの情報を入力してみます。自由にコマを動かしているイメージだけだと、どんなプレーでもできるような気がするんですけど。でもさまざまな個人情報を一人一人のコマに入れていくと「今の彼の状態では、こうは動けないな。ではこう動かしてみたらどうだろう」とイメージの中で別の動きをさせてみたりするんですね。これを6つに分けた試合時間ごとにやっていくんです。当然、味方の動き以外にも相手の動きも一つ一つイメージしますよ。

――それ以外にシュミレーション作りのポイントはありますか。

 そうですね、6つに分けた時間帯のどこに勝負のポイントを置くかということですね。いすゞ自動車の場合はスタートダッシュして「最初に貯金をたくさん作ろう」という考えなんですけど、状況によっては変えていかないといけません。その勝負ポイントをどこに置いたら、味方の選手たちが心理的に乗れ、相手に流れを作らせないで済むかをシュミレーションの中で想像してみますね。その中で相手側がしかけてくるだろうという勝負ポイントの時間帯も考えておきます。でも、この予想展開とまったく違うパターンになるときも試合ではたまにあります。でも、前半はあくまでも試合前に作ったシュミレーションは変えないようにしています。試合の途中に変えようとすると心理的に焦るし、頭の中も混乱しミスが多くなるからです。だから、前半は相手のペースに合わせて我慢して乗り切って、ハーフタイムのとき後半の作戦を考えるようにしていますね。

《高畑好秀著「メンタル強化バイブル」(池田書店 1999年)より転載》



メンタルトレーナー高畑好秀プロデュース