line4.jpg

HOME > メンタルインタビュー > メンタル「荻原健司」

スキー/ノルディック複合

荻原 健司 Kenji Ogiwara

リレハンメル五輪団体金メダリスト

昭和44年生まれ。群馬県出身。中学3年の時、双子の弟・次晴氏とともにスキーの全国大会複合競技で1、2位を独占。長野原高時代、国体1位。89年大学選手権で優勝、同年と91年ユニバーシアード(ソフィア、札幌)で2連勝。92年アルベールビル五輪個人7位、団体で金メダルを獲得した後、93年シーズンから3季連続でW杯総合1位という偉業を成し遂げる。94年のリレハンメル五輪個人4位、団体では金メダル。W杯通算19勝は世界最多記録。

荻原健司

「試合当日のスケジュールをしっかりたてて試合一週間前から
その予定通りの生活リズムを作っていますね」

プレッシャーは絶対量が決まっていると考える

――ノルディック複合は北欧では大変人気のあるスポーツですよね。本場の選手たちを押さえて数々の優勝を重ねてこられた裏には、周囲のプレッシャーとの戦いがあったと思います。また、体格のいい海外の選手に囲まれると日本の試合では感じられないような緊張もあったのではないでしょうか。

 やはりレース前はかなり緊張しましたね。おっしゃる通り、ワールドカップでは北欧の各国を転戦してますけど、やはり97年の長野五輪は最高に緊張しましたね。何年も前から「長野で金メダルを頼むよ」と周囲からも言われ続けてきたし、応援も日本語なので声援や熱意もすべて理解できますからプレッシャーにもなりますよ。
  その分、北欧だと応援の言葉も何をいっているのかわかりませんからね(笑)。だから言葉に気を取られることもなく競技に集中できますよね。

――では、緊張を解消するために、何か行っていましたか。

 そうですね、僕は試合当日のスケジュールをしっかり立てるようにしています。まあ何時に競技が始まるとか、何時に競技場に向かう車が出発するとか、何時くらいに自分のジャンプの番が来る、クロスカントリーは何時くらいから滑り出すだろうから食事は何時に摂ろうとか、詳しくスケジュールを組みますね。試合前にそうやって当日やるべきことをしっかり考えて自分の中で組み立てておくことで、ある程度緊張を解消できると思います。
  それを試合当日だけでなく、試合の1週間前から、もしくは転戦で時間がないときは2、3日前からそのスケジュール通りの生活リズムで生活するようにしています。それに日常生活では雪のないオフの間でも何時には起きて何時には朝食を摂ろうと決めてその通りに生活してますね。やはりレースのときだけ特別な生活になるというのはそれだけで緊張の原因になりますからね。レースを日常の延長線上のようにできれば、安心もできますから。

――では、周囲のプレッシャーについてはどうですか。やはり、期待やら妬みやらいろんなプレッシャーがあったと思うんですけど。

 僕が大学4年のときのアルベールビル五輪での話なんですけど、あの個人戦の前はすごく調子がよかったんですよ。公式練習のジャンプもいつもトップでした。これは金メダル取れちゃうよって金メダルのことを強く意識したときから心はドキドキして前日の夜もなかなか寝られませんでした(笑)。そんなプレッシャーがかかったら勝てるはずありませんよね。結果も7位だったんですよ。でも次に団体戦がありますから、ずっと落ち込んでもいられませんよね。だからプレッシャーっていうのは絶対量が決まっているんだと考えました。一日に10なら10という具合にですね。そうしたら僕はもう個人戦のときに何日分も先払いして消化済みなんだから、団体戦ではプレッシャーなんかまったくないよって気楽な気持ちでできたんですね。そうしたプレッシャーに対する発想の転換が団体戦の金メダルにつながったんだと思います。

――スキーというのは天候によって心理面も左右されると思うのですが、そういった気象条件やコース条件で、不安になることってありませんか。

 ありますね。長野五輪の個人戦決勝でも大雨でしたしね。あとワールドカップなんかでも雨や大雪だったりしたこともありますよね。
やはり僕も含めて他の選手もほとんどが気持ち的に嫌だなって思うものなんですよ。でも逆に僕の中では、そういうときこそチャンスだと思うようにしてますね。やはりほかの選手がが「ああ嫌だな」とマイナスに心が向かっているときに、僕だけはチャンスだと考えられればそれだけでも心理面ではリードできるわけですから。自分だけは、みんながマイナス思考の分だけプラス思考でいこうと考えるようにはしていますね。だから雨や雪が降ると「ああ、自分にとっては恵みの雨だ。ラッキー(笑)」って考えますよ。

試合直前は一人になって競技イメージに没頭する

――では試合直前の集中力の高め方があったら教えてください。

 僕はどちらかというと、試合直前は一人になってウォーミングアップをしたりしていますね。それにジャンプ直前も一人でジャンプのイメージを頭の中で繰り返しています。ですから、途中で人から話しかけられたりすると、それが中断されてしまうのでやはり嫌ですね。だから意識的に人から思い切り離れたところで、自分の世界を作りようにしています。だから直前は僕から他の選手に話しかけるということもありません。これは僕なりに他の選手に対して気を使っているんですけど、無愛想な奴って思われていたかもしれませんね(笑)。
  それに長野五輪のときはジャンプの前とか、不安というか「どうやって飛ぼうかな」という恐怖感が大きかったんですね。そういうときはなかなか集中できないものなんですよ。そこで、「今までどれだけ練習してきたのか、この日のためにどんなに賭けてきたのか」と心の中で思い返し、「今ここで思い切りやればいいんだ」と自己暗示をかけましたね。不安や恐怖に立ち向かってそれを克服するのではなく、今までやってきたことをしっかり思い返して「それを見せる舞台がここにあるんだ」と言い聞かせるんですよ。そうやって心を落ち着かせると集中もしやすくなりますからね。

失敗したら何が原因で失敗したのかを考えて次に生かすようにする

――ノルディック複合では、最初にジャンプ競技があります。2本のジャンプのうち、1本目のジャンプが心理面に与える影響は大きいと思いますが。

 そうですね、2本目もうまくいくかどうか1本目のジャンプの意味合いは大きいですね。それは自分の心理面だけではなく、相手に与えるプレッシャーの大きさという面からもそうです。でも僕の場合は、1本目にいい記録が出ても2本目を若干ミスしてしまうことはあるんですよ。それは守りの気持ちの小さいジャンプということではなくて、その逆で2本目はもっと飛んでみようという欲が出てしまうからなんです。気持ちが大きくなりすぎるのも危険なんですよね。逆に1本目に失敗してしまうと、心理的にがっくり落ち込みます。そういうときはその1本目を忘れるようにしますね。でもすべてを忘れるというのではなく、何が原因で失敗したのかの反省は必ずします。ただ「1本目まずいことをしちゃったな」とか「コンチキショー」とかは思いますけど、失敗したものはやり直しがきかないので、そうした気持ちは捨てつつも反省はして、それを生かせるように2本目に気持ちを集中させていきますね。

――逆にクロスカントリーのほうもコースが大会によって違うわけですけど、競技前にどうやってシュミレーションとかされていましたか。

 現地に入ったらすぐにコースの下見をします。その下見ではコースプロフィールも手に入れて細かくチェックをしてます。そして実際にレース前のトレーニングでもコースを滑ります。そういう中で、駆け引きをする場面やラストスパートをかける場面などのコースの状況を頭に中にたたき込むようにしてますよね。
  そこまで下準備をしておいて、実際にジャンプが終わった時点で、ジャンプによるスタート順位が決まってからイメージの中でより予想可能なレース展開を作り上げます。自分のライバルの選手がどのくらい前にスタートするのかもわかりますから。そういう展開イメージを何通りか考えておきますね。「どの選手がこのあたりまでついてくるだろう」とか「あの選手は何キロ先あたりで見えてくるし、ペースも落ちてくるだろう」というのをイメージの中で組み立てるようにしてます。

――クロスカントリーは大変スタミナを消耗する過酷なレースですよね。長野五輪のゴール直前はおもわず応援の声も大きくなりましたけど。そういった肉体的にも精神的にも苦しくなったときってどんなことを考えているんですか。

 ゴール直前というのはもうがむしゃらですけど、レース中に苦しくなるのは自分のペース配分とかが狂っているということなんです。ほかの選手もいっしょにレースしてるんで、なかなか自分の体調やペースを維持していくのは難しいんですね。ライバル選手に追いつかれそうになって、思わずペースを上げてしまったりとか。そうして苦しくなっていくんですけど、あまり調子がよくないなと思ってしまうとあせりの気持ちが生まれて心理的にも苦しくなりがちなんですよ。
  そういうときは、自分を落ち着かせて苦しい中でも客観的に自分を観察するように意識しています。何で自分は今こんなに苦しいんだろうと客観的に苦しさの原因を探すんですよ。「ペースが速すぎるのかな」とか「自分のテクニックの問題で変な負荷がかかって苦しいのかな」とかいろいろと冷静に考えるんですよ。そうやって原因を見つけながら、レース中でもレース展開を組み立てます。自分で、これ以上を超えてしまったら絶対アウトだなというのはわかりますよね。そのアウトのラインを超す前に手を打つようにしてますね。

VTRを使って自分のイメージと客観的なイメージのずれを調整する

――ところで、イメージトレーニングのようなことはされていますか。

 技術的な面ではイメージを活用していますね。クロスカントリーもそうですが、やはりジャンプはイメージの要素が強い競技だと思いますよ。
  僕は今まで経験してきたジャンプの中でも会心のジャンプというものを常に心の中に残すようにしてるんです。心の中に残すときに活用するのがイメージなんですよ。それもスローモーションのような映像ですね。そのイメージは自分がコース台から滑って飛んで下を見ている縦の映像ですね。横からのイメージじゃないです。
  試合のときに自分の番が近づいてきて、そろそろ自分の番だなと思うときに、上からジャンプ台を見ているんですけど、スタートする前には一度目を閉じてよいジャンプのイメージをするんです。助走からジャンプ、そして着地するまでをイメージ体験しておくんで
すね。そして自分が実際にジャンプするときには、そのイメージに合わせて飛べばいいという感じで取り入れてますね。

――イメージトレーニングにVTRは活用されてますか。

はい、使います。VTRで自分のジャンプを客観的に見るようにしています。やはりジャンプのテクニックを最大限に伸ばすためにはVTRは欠かせませんね。なぜかというと、ジャンプの選手たちというのはジャンプ台を縦にしか見られないわけですよ。逆にコーチは横からしか見えないですよね。ここで選手とコーチのイメージが違ってズレが生じてくるんです。
  だから僕はこのズレを修正するためにも自分のジャンプを横から撮ってもらって、自分の中にある縦のイメージと横からのVTR映像を比較しながら何度も見ますね。そうやって横と縦のイメージをしっかり頭に中に入れることが大切だと思います。

練習日誌を見返すことでスランプから脱出するヒントをつかむ

――ところでトレーニングの際に練習日記のようなものをつけられていましたか。

 練習日誌は高校生のころから毎日欠かさず書いてますね。まあ内容は基本的にトレーニングで何をどのようにしたかというものですけど。でもそれをつけておくことで何年前の何月何日にはこういうトレーニングをしていたという過去のトレーニングデータにもなりますからね。
  それ以外にも、そのトレーニングをそのような気持ちで取り組んだとか、大会のときどのような心理状態で臨んだらどのような結果になったとか詳しく書くようにしてます。時間がたったあとで見直しても、リアルにそのときの映像が思い出せるくらいの内容です。とくに自分の調子の悪いときなどは、よかった時期の内容を見て自分の日記に助けられたことがよくありますね。

――スランプのときなんかでも、その練習日誌を見直すことで調子を取り戻していったんですか。

 ええ、調子が悪いときは調子がよかったころの日誌を読み返すことがあります。でも調子のよかったときのページを見ると、どちらかといえば何も書いてないことが多いんですね(笑)。逆に言えば、調子のよさに任せて何も考えてなかったんでしょうね。つまり頭の中がクリアなんですよ。
  スランプのときって、原因がここじゃないかあそこじゃないかってあれこれ考えすぎて、糸がもつれた状態だと思うんですよ。だからスランプのときは、考えすぎかもしれないんで一回何も考えず放っておいて頭をクリアな状態にするようにしていますね。
  それと練習のときに調子悪いなと感じたら、適度なところで終わらせるようにしています。調子悪いイメージや気持ちを引きずりたくないですからね。それで次の日は「昨日は切り上げたから今日はやるぞ」と新たな気持ちで練習に取り組みます。調子の悪さを引きずると、思考の迷路にはまりこんでしまいますからね。スランプの一番の敵は考えすぎることかもしれないですね。
  よく弟の次晴にも、僕がスランプで悩んで暗い顔をしているときに「そんなに考えてもよくならないよ。たまにはこういうときもあるんじゃないの」って励まされましたね。次晴のおかげで「ああそうか、こういうときもあるよな」って気持ちの切り替えができて頭もクリアになって、いつの間にかスランプから抜け出していたということもありましたね。

《高畑好秀著「メンタル強化バイブル」(池田書店 1999年)より転載》



メンタルトレーナー高畑好秀プロデュース