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水泳

中村 真衣 mai nakamura

競泳

1979年、新潟県生まれ。小学3年生から地元のJSS長岡で水泳を始め、帝京長岡高校時代にはアトランタオリンピックに出場し、百メートル背泳で4位(1分2秒33)、二百メートル背泳で9位(2分11秒40)の実績を残した。中央大学に進学後、2000年のパン・パシフィック選手権百メートル背泳で金メダルを獲得。2001年4月に行われた日本選手権百メートル背泳では1分00秒78の日本新で優勝、五十メートル背泳タイムトライアルは、日本人では28年ぶりになる世界新記録(28秒67)をマークした。シドニーオリンピック代表。とてもオープンで気さくだが、芯の強さを感じさせる選手。

中村真衣

自分に自信を持つことで勝つイメージに修正できる

―中村さんは、2000年の日本選手権大会でシドニーオリンピックの切符を手にされましたが、その大会では緊張やプレッシャーが大きかったでしょうね。

「そうですね、私はかなり緊張するタイプなんですね。もう試合の2ヵ月前くらいからときどき夜眠れなくなってきて、1週間くらいになるともう大変ですよ(笑)。大きな大会の前になると、『ああもう10時だよ』『やばいよ、2時だ、3時だ』って感じで、眠れない自分に対して腹が立ってイライラしてきて、さらに眠れなくなってしまうということがよくあります」

―試合前夜に気持ちが高ぶって眠れないという選手は多いようですが、中村さんの眠れない原因はなんだと思いますか。

「やはり、水泳のことを考えすぎてしまっているからだと思います。たとえば、練習が終わってプライベートな時間になっても『このまま自分の調子が上がらなかったらどうしよう』などと無意識のうちに水泳のことを考えこんでしまわないように、自分の興味のあることに目を向けるようにしています。そういうときは、水泳のVTRも見ないようにして好きな音楽を聴いたりしています。そうしながら、自分のまわりから水泳を考えさせられる要素を取り除いていくようにしています」

―やはり試合のことをあれこれ考えていると、自然に試合のイメージも浮かびますよね。調子が悪いときには無意識のうちに勝手に負けるイメージが浮かぶと思います。それを、意識的に勝つイメージに心の中で修正されるということはありますか。

「そうですね。大きな大会の前に調子が悪いときは、『明日のレースはどうなるんだろう』と考えながら、負ける自分の姿ばかりイメージしてしまうことがあります。もちろん意識的には勝つイメージをしようとしているんですよ。でもそうやっていいイメージをしていても、途中でところどころ、パッと悪いイメージが顔を出すんです。2000年の日本選手権でも悪いイメージが浮かびましたが、意識的にそのイメージをパッと消すことができ、元のいいイメージに戻せたのです。逆に、悪いイメージに引っぱられてうまくいいイメージに戻せないこともありました」

―全くそのとおりで、悪いイメージが浮かんでもそれをすぐに修正できるかどうかが大きなカギを握っていると思います。でもいいイメージに戻せるか、戻せないかを決定づけるものは中村さんの中では何だと思われますか。

「私は、そのときにどれだけ自分に対する自信が持てているかだと思います。調子がよくても不安で仕方がないこともあるし、逆に調子が上がらなくても何か強い自信を持てることもあるんですよ。そのためには日ごろの練習がとても大切なんです。この練習も量より質が大切だと思います。大学3年までのですが、これまでの2年間は思うような結果を残せませんでした。すると、ついつい心も後ろ向きになるというか、記録がグングン伸びていた新潟での高校時代ばかり思い出してしまうんです。それで、『今は、スランプではなくて、高校時代の練習内容の方が自分には合っていたんだ』と、大学での練習に少し懐疑的になることもありました。やはりどんなによい練習でも、行っている自分の気持ちがそこに向いていなければダメですよね。大学3年くらいに気づき、『身体も高校のときと違うので、一度高校時代のこだわりから離れて新しい泳ぎにチャレンジしよう』と考えたのです」

納得ずくの練習の積み重ねが大きな自信に

―そのように心のよりどころを切り捨てて、それまで信じきれなかった練習を信じてみようと考えるのには勇気が必要ですよね。しかも伸び悩んでいるときというのは、あせる気持ちも手伝ってなかなかそのように考えられないものです。

「そうなんです。しかし、一度そう心に決め信じてやってみようと、心から満足できる練習(内容)をやっているときというのは、調子が上がらなくてもあせらず『きっと調子は上がってくるはずだ』と考えられるんです。練習中のタイムに関しても、『この練習を続けていけば自然にタイムもよくなるはずだ』と肝がすわって、それまでのように練習中のタイムに対して一喜一憂しなくなりました。つまり心の中が波立たず、常に穏やかな状態で練習に取り組めるという感じです。だから自分の調子のよいときも悪いときも絶対に練習内容は変えません。心から納得した練習の積み重ねが、結果的に大きな自信につながると私は考えています」

―やはり納得のいく練習を考えるときには、その練習の意味のひとつひとつを指導者と一緒に検討していく作業が必要になりますね。そういう意味でも竹村コーチほかコーチングスタッフの存在は大きいですね。

「はい、竹村コーチは小学生のころから指導していただいていますから信頼も大きく、私自身の考えも素直に伝えられる存在です。
 中央大学の水泳部(以下、中大)では、ショート、MDⅡ、MDⅠ、ディスタンスと分けられていて、後ろにいくほど練習時に泳ぐ距離が長いのです。以前私はMDⅡのグループにいましたが、大学3年のころからショートグループへの転向を要請し、結局話し合いによって移ることができました。ショートは1日に1万mを泳ぎますが、以前より泳ぐ距離が短くなった分だけ、一本一本に集中できるようになりました。やはり長いと集中力の維持が難しいですから。あとは、私がショートを泳ぎきっても、それ以外のグループの選手はまだ泳いでいるわけですから、早く終わった分だけ他の選手が泳いでいる間に『やるべきことを行う』という姿勢が身につき自主性が出てきたように思います。

また、少し余力を残しておくことで、『もう少し練習したい』という気持ちが生まれ、さらに『自分の弱いところは何か』『それを克服するためにどのようなトレーニングをすればよいのか』を考えられるようになっていくのです。やはり、自らの意志でやりたいと思って取り組むほうが自分の身になりますね。そのように練習してきたことが日本選手権で生かされたと思います」

イメージトレーニングで泳ぎの感覚を確認する

―そのようにして積みあげた自信は揺るぎないものなのでしょう。それ以外に練習の中に取り入れられているメンタルトレーニングはありますか。

「高校生のときから取り入れ、今でも継続して行っているものにイメージトレーニングがあります。これは、試合で召集所にみんなが集まっている場面からイメージしていき、コース台までの道のりから、コース紹介を受ける場面やそのときの声援、そしてコース台から入水しスタート位置について、泳ぎ、そして1位でゴールして周囲に手を振っている様子を、試合時と同じ流れでイメージしていくのです。泳いでいるイメージは自分の目から見たイメージで、それ以外の応援を受けているイメージなどは、テレビで自分の姿を見ているイメージです。イメージを想起し試合の流れを繰り返すことで、試合当日の緊張感を味わうことができ、緊張に対する慣れができてくるような気がするのです」

―そうですね、これは試合の流れを事前にイメージの中で体験する「メンタルリハーサル」でとても大切なものです。しかし、“泳ぎのイメージ”は、また別のところにあるように思うのですが。

「確かに泳ぎのイメージは大切にしていますし、泳ぎの感覚の確認作業でもあると考えています。スタートからイメージを始めて、コーチが30秒、45秒、1分と笛の合図で知らせてくれますが、イメージの中で泳いでいる位置と実際に泳いでいる位置はおよそ一致してきています。私の場合は、スタートしてからバサロで11~12回打って、50mまで34~35回のストロークで行き、ターンして7~8回バサロで打って、ラストを42~45回のストロークで泳ぎます。この実際の泳ぎと、1分でゴールできるようなイメージにズレがないリアルなイメージを持てるように努めますが、もしここにズレが生じた場合は正しいイメージができていないことになるので最初からやり直します」

イメージと現実とのズレをチェックし、修正する

―これは陸上競技の選手もよく行う、時間を基準にしたイメージトレーニングですね。イメージと現実のズレという点では、自分ではうまく身体を動かしているイメージでも、実際は違う動きをしているということもありますよね。

「はい、あります。私の場合、調子がよいときというのは、(身体側に対して)外側に入水しています。それで日ごろの練習でも自分では外側に入水しているイメージで泳ぐのです。でも自分で自分の入水角度は見られませんから、コーチやVTRに頼ることになります。そうすると自分では外側のイメージでも、実際には内側だったということを発見できるのです。そこでイメージの修正を行ないます。たとえば、『どのくらいの手の動かし方のイメージでやると外側への入水が可能になるんだ』というように、イメージして実際に泳ぎ、それをチェックするという作業を繰り返すのです。経験的に、『自分ではイメージどおり身体を動かしているのに、なぜできないんだ』と悩むことが、けっこうスランプの入り口になっていくようにも思えます」

―間違ったイメージが何度も繰り返されると、そのイメージが強化されますから早い段階でそのズレを修正することが大切です。他には常に自分の調子のよいときの泳ぎの映像を見て、よいイメージを強化することも大切だと考えられますが。

「やはりイメージは大切ですよね。これはイメージから少し離れるかもしれませんが、私の泳ぎは前半とばすタイプタイプなので、後半を強くしたいと考えています。とにかく後半の残り15mがキツイですね。これをコーチに話したときに、それは自分で『後半はダメなんだ』と心の中で決めつけているからじゃないのかと言われました。それを聞いてから、『自分はこのあたりから苦しくなる』と考えると、本当にそこから苦しくなっていくようにも思えました。
 世界でも女子百メートル背泳で1分を切る選手はいませんから、自分の心の中で『1分を切るなんて奇跡だ。1分は切れないだろうな』と考えてしまいがちです。でも、そう考えている以上は絶対に1分は切れないと思うんですよ」

―スポーツでは、そうした先行イメージや先入観が強くなると、心が身体に限界をつくってしまいます。ウエートトレーニングのベンチプレスでも「もうこれ以上挙げられない」と考えると最大挙上重量以下でも挙がらないときがありますから。それで中村さんはその限界をどのように打破しようとしているのですか。

「女子では1分を切る選手はいませんが、中大にも男子で56、57秒で泳ぐ選手がいるので、私はそういう選手たちと一緒に泳ぐようにしています。その選手たちに『ついて行くゾ』という気持ちで泳ぐとタイムも少しずつ縮まっていくように感じます。マラソンのラビットのように、独走するよりも自分より少し速い人たちと一緒に走ったほうがタイムがよくなると言いますね。そうやって男子選手と競って泳いだときのイメージも自分の中にしっかり残していけるようにすれば、1分は切れると信じています。そうすることで、今まで設定していた限界値を少しずつ広げられるよう努力しています」

相手のペースに合わせるのではなく自分のペースに相手を合わせる

―ところで以前、チームメイトの田中雅美選手(平泳ぎ)とお話ししたときに、競泳におけるメンタル面のポイントは、何事においても自分のペースを守ることと伺っていましたが、中村さんはそのようなことを意識していますか。

「私も試合前には、何事においても自分のペースを乱されたくないタイプです。たとえば食事では、仲間で食べにいっても自分の食べたいものを食べるようにしますし、遠征先のホテルはだいたい2人部屋ですが、起きる時間がズレて自分が早く起きてしまっても朝の体操は欠かさないようにしています。
 他には試合場でも召集所で他の選手には絶対弱いところは見せないようにしています。調子の悪いときでも表情をつくって調子がよさそうにふるまいますし、歩くときも『自分のほうが上なんだぞ』と胸を張って歩くようにします。選手紹介のときでも、あえて一歩前に出て自信を全面に押し出すようにします。自分が相手のペースに合わせて小さくなるよりも、自分のペースに相手を合わさせるように仕向ける動作が、メンタル面でも優位にさせますね」

―それは対戦相手を意識した自分流のスタイルづくりで、緊張の緩和にも大いに役立ちますね。また試合時間に合わせた心のリズムづくりということは考えられていますか。

「中大では、大会の一週間前くらいから練習が1日1回の朝練のみになります。でも大会の決勝は午後ですから、自主的に午後も泳ぐようにしています。せいぜい1週間のうちの2日くらいですが、この目的は午後に身体がどれだけ動くのかをチェックすることです。ヒトの生活というのは、ある程度リズムに従っていますから、そのリズムを構成するために行っています。普段は朝6時に起きて朝練の準備をするというのがリズムの始まりですが、オフの日でもゆっくり寝たいのに6時に目覚めてしまうんですね(笑)。そういうことを考えても心のピークを試合時間に合わせる習慣づけは大切でしょうね。私の場合は週に2日のその練習が、リズムづくりを助けてくれるのです」

何事にもプラス思考で臨む

―ところで中村さんのお話を伺っていると、何事に対してもとてもプラス思考でとらえられているように思うのですが、競泳におけるプラス思考の具体的方法を教えてください。

「たとえば、練習中のタイムが悪かったときでも、『よいタイムは試合のときこそ必要なのであって、練習では関係ない』とか『タイムは悪かったけれど、泳いでいたときの感覚がよかった』というように、自分にプラスになるよう意識しています。

 他には、試合会場に向かう途中で運の悪いことがあったとしますね。そのときに『今日は、なんかツイてないな』と考えるのか、それとも『運のよいことは試合の瞬間までためておいたほうがいいんだ』と考えるかで、メンタル面には大きく影響してきますよね。

 競技会では、百メートルが失敗したときに『ああ、これじゃあ二百メートルもダメだな』と考えると、本当に失敗してしまいます。そこで競技の特徴に目を向け、百メートルはスピード力が要求される種目、二百メートルは持久力の種目だからと、考えを前向きにして『今日はスピード力では失敗したけれど、持久力二百メートルは百メートルとは全く関係ないので頑張ろう』と気持ちを切りかえられるようにもなってきました」

スタート時に何回か大きく呼吸すると集中力が高まる

―今までお話を伺ったこと以外にも中村さんがメンタル面のコントロールに役立てているような方法があれば教えてください。

「そうですね、私はスタート時に大きく何回か呼吸するようにしています。スタートの構えに入ってからピストルが鳴るまでの短い間なのでほんの数回のことです。これはある先生にそのように呼吸することで酸素が十分に身体のすみずみにまで行き渡ると教えてもらってから行っているんですけど、気持ちも落ち着いて集中力も高まるような気がします。

 他には、ちょっと休んでた時期もありますが、以前やっていてよかったものが日記をつけることです。日記にはそのときどきの気持ちを書くので、精神的につらかったときのことも後から見てリアルに思い出せるので、そのときにどうやって気持ちを乗りきったかわかりますから、自分の記録としてとても重要だと思います。それにスランプ時の乗り越え方などを一歩引いて見ることができ、心理状態の克服に役立つことが多いように思います」

―最後になりますが、シドニーオリンピックに向けて、メンタル面での最終調整はそのようにされていたのですか。

「アトランタのときは、自分がオリンピックに出られるというだけである意味満足していたように思うんですね。でも周囲がメダル、メダルと騒いでいるので『何かメダルをとれそうだな』と自分でも勝手に期待していた部分があったように思います。結果の4位も、冷静に見つめれば自分の評価としては百点満点だと思うんです。ただシドニーオリンピックは2度目なので、今度こそはという気持ちはありました。前回のオリンピックに出る前は、出場に際し、『ああ、きっとものすごい大会なんだろう』というプレッシャーや不安が大きかったんですけれど、シドニーは、舞台はオリンピックだけどやることは他の大会と同じように泳ぐことなんだと、変にオリンピックを意識することはありませんでした。普通の大会の延長のような気持ちで泳ぐことだけに集中していきたいと考えていましたね。
 私はパン・パシフィック大会で、シドニーのプールで泳いできたので、イメージトレーニングでシドニーの風景やそのプールの水の感触などをリアルにイメージしていくということはやってました」

《高畑好秀著「成功するメンタル改造術」(主婦の友社)より転載》



メンタルトレーナー高畑好秀プロデュース