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体操/吊輪

永山 丈太郎 jotaro nagayama

1972年生まれ。東京都出身。幼稚園より東京都大田区にある池上スポーツクラブに入会し、体操競技を始める。湘南工科大付属高に進学、校内の体操部に入部。高校3年時にインターハイの団体8位、個人29位。高校卒業後、日本体育大学に進学。さらに同大学専攻科に進み体操を続け、現在東京・多摩市にあるアーチスポーツで体操の指導を行うかたわら選手生活も続けている。93・94年全日本種目別選手権大会吊輪で2連覇、96年同大会優勝。98年の種目別世界選手権日本代表決定戦2位。

永山丈太郎

「自分の演技が成功するイメージをものすごく鮮明に作り出すと、
心の奥底から自信が湧き上がってくるんです」

調子がいいときほど挑戦者気分でリラックスして戦うことができる

――永山さんは「吊輪のスペシャリスト」として体操界を引っ張ってこられましたが、それだけに吊輪では失敗できないというプレッシャーとの戦いがあったと思います。今まで吊輪を続けられてきて、とくに緊張を感じるのはどんなときでしたか。

 僕は97年は全日本種目別選手権7位と調子が悪かったんですけど、今まで崩れたときを振り返ると、勝たなきゃいけないと強く思っていましたね。僕はずっと勝ち続けていると、知らないうちに守りの心理になるんですよ。
  吊輪競技の場合、動いているところからピタッと静止させなければいけないんです。そのとき無理に「止めなければ、止めなければ」と思うと、緊張のため体が固くなって止めることができないんです。
  逆に調子のいいときは、挑戦者のつもりでやるだけやれればいいくらいの気持ちで、気楽な気持ちで戦えるんです。種目別世界選手権日本代表決定戦は腰痛がひどく2位だったんですけど、自分自身ではすごくリラックスして臨めましたね。

前に優勝したときのVTRや理想とする選手のVTRを見る

――そんなときに意識的にやっている緊張解消法はありますか。

 僕は試合前に、これから迎える試合で優勝しているイメージを頭に何度も浮かべるようにしています。このとき利用するのがVTRです。自分が前に優勝したときのVTRを見たり、世界の一流選手の中でも自分が理想とする選手のVTRを見たりします。それらを見て、自分の演技が成功するイメージを、ものすごく鮮明に作り出すんです。それを繰り返していると心の奥底から自信が湧き上がってくるんですよ。
  でもそうしても緊張がひど過ぎて、悪いイメージばかり浮かぶときもあるんですね。そんなときは大きく不安が残るんです。そうなるとイメージを描こうとすること自体がプレッシャーになります。やはり成功のイメージがうまくいかないときは成績が悪いですね。

――そういった成功イメージを試合前のどのくらい前から思い浮かべるようにしているんですか。

 それがですね、僕はある法則を発見したんですよ。悪いイメージが浮かぶときっていうのは、1か月前くらいから始めてたんです。逆に成功イメージが浮かぶときは、1~2週間くらい前に始めているんですね。
  僕の心理の波だと思うんですけど、このイメージを描く周期が長すぎると技術面のアラが見えてしまうんですね。考えごとも長すぎると考えなくていいことまで考えてしまうものでしょ。つまりイメージ期間が短いと自分のアラにも気づかずにすむんです。そうすれば悪いイメージも浮かばないんですね。だから1~2週間前から始めるようにしています。

他人の演技は意識的に見ないようにして、自分の演技に集中する

――ではいよいよ試合直前というときのリラクゼーション法はありますか。

 僕は他の選手の演技の得点計算をしないためにも、自分よりも前に行う選手の演技は見ないように意識してます。そのときは、目を閉じて「他の選手は関係ない。演技をするのは自分自身なんだ」と心の中でつぶやいてますね。そうしないと「誰々が何点だから、自分はその点以上取らなければ彼に勝てない」と、考えてしまうんです。そうなると当然点数のことばかりに意識が向いてしまって、演技そのものに意識を集中できなくなってしまうんですよ。

――確かに他人のプレイしている姿に引き込まれて、自分のペースが取り戻せなくなるという選手は多いですね。ほかに実践されていることはありませんか。

僕の父親は、昔からずっと今もテニスをしているんです。そんな父親からいっぱい手紙をもらってるんですよ。全日本選手権で勝ったときも、負けたときも。それでまた手紙の内容が、すっかり僕の心の中を読まれてる感じで実に的を射ているんです。「あの試合はすっかり逃げに入ってたぞ」なんて書いてあるんです。僕はその父親からの手紙を読み返すと、なぜかやる気が沸々と湧いてくるんですね。だから試合会場には、いつももっていって読むようにしているんです。
弱気になったときも、「何くそっ」ってファイトが湧くんですね。一種のジンクスといえばそうかもしれないですけど。

着地が決まったところを中心に、自分が行おうとする演技の流れを何度もイメージする

――試合前には相当集中力を高めていると思うんですが、永山さんなりの集中力の高め方ってありますか。

 他のスポーツでもそうですが、体操競技というのは、集中力がものすごく必要なので試合前には自分なりに集中力を高める努力をしています。自分が競技する直前は最終チェックのつもりで目を閉じて、着地が決まったところを中心に、自分が行おうとする演技の流れを何度もイメージします。僕の場合、実際の演技時間は40~45秒なんですけども、ぶら下がって2秒止まって、体をスイングさせて…って具合に進めていくんですね。その中でも着地の部分を中心に置くわけは、吊輪競技で一番難しくて、しかも減点対象になりやすいからです。それに着地という一点に集中力をそそぎ込むことで、集中力を高めていくことができるんですよ。

――その方法を行うと、必ず集中できるんですか。

 だいたい大丈夫ですけど。でも時にはできなくて不安になるときもありますよ。集中しないといけないって思えば思うほど、気が散って焦ってくるんです。まずい、まずいって(笑)。そういうときは、自己暗示をかけるようにしてます。「どうせ勝つのは自分なんだから、みんな僕の演技を見てくれ」とか心の中で自分自身に何度も言い聞かせます。その後2~3度大きく、ゆっくり体の中から不安を出すつもりで深呼吸して、最後に「ヨシっ」と声を出します。これが、僕の自己暗示法です。
  試合前の自己暗示法もあって、履歴書なんか書くときにまだ先の試合結果も勝手に優勝って書いたり(笑)。人にも「今度の全日本で優勝するのは僕なんだよ」って話したり。日ごろからそんなことをやってますね。自己暗示をかけ続けていると、その「優勝する」ってことが疑いなく思えてくるんですよ。

イメージから得た注意事項を忘れないようにメモを取り、次回の練習に生かす

――体操のような採点式の競技だと、一つのミスが他の演技に悪影響を及ぼしてしまうことがあると思います。そのようなときはどのようにして気持ちを切り替えるんですか。

 現在、僕は吊輪のみに絞ってやっているんですけど、体操競技全体で男子は6種目あるんで当然昔は6種目すべてやっていたんです。当時はたとえば、1種目めの床で失敗しても僕はそのミスを忘れるようにしていました。だいたいどんな選手でもこの6種目すべてミスがないなんてことはほとんどありませんから、失敗自体は人間である以上仕方ないと思ってるんです。「この試合ですべき失敗は今してしまったから、残りは全部うまくいくさ」と考えるようにしてます。失敗はしないものだと考えていると、そのショックから立ち直れないでしょうね。
  僕は、どうせ1回は失敗するなら、最初に失敗できてよかったと思うくらいですよ。どうせ誰もが通る道なら最初に嫌なことを終わらせてよかったな、これで後は気持ちよくできるって感じです。それと失敗したときは、失敗した床のことは忘れてこれからある得意の吊輪に意識を集中させるようにしているんです。「まあ、この失敗は吊輪で取り戻せばいいさ」って具合ですね。

――試合では前向きに考えることで気持ちを切り替えているということですね。では、永山さんが日ごろからメンタル面で意識されていることはありますか。

 これは意識していることではないんですけど、一年中、何しているときも吊輪につかまって演技しているイメージが浮かんでるんです。ご飯食べているときだったり、テレビを見ているときだったりいろいろなんですけど、そんなときにイメージの中で納得いかない部分があったりするんですよ。力の入れ具合や、静止しているときの体の角度とか。
  僕はそれらのイメージから得た注意事項を忘れないためにノートに取るようにしているんです。そしてその注意事項を次の練習テーマにして望むんです。そして毎回練習のときにVTRで撮るんですよ。そうやって自分のイメージと現実の演技の間にあるズレを修正していくんですね。そのズレはほんの数度の小さな角度なんですけど。「この間隔イメージだと、体が真っ直ぐになってるんだな」って感じでどんどんそのズレをなくしていってイメージと現実を一致させていくんですよ。そんな小さく細かい作業なんですけど、それがパーフェクトにできた試合では必ず優勝できてますね。

どんなすごい選手でも「この人のようにはなれない」などと自分の中に限界を作らない

――永山さんは体操を始めたのが、小学生のときですよね。これだけ長い間体操をやっていてマンネリ化を感じたことはありませんか。

 吊輪自体を嫌だと思ったことは今まで一度もないですね。でも自分の演技の内容に対してはマンネリを感じたことはあります。いつも同じ内容の演技だとやはり飽きてきますよね。でもそういうときは僕自身はチャンスだと考えているんです。他の人の技を盗んで自分のものにしたいと思えますからね。そういう意味では体操競技というのは進化するスポーツなんです。実際僕が4年くらい前にできて他の選手ができなかった技も、今ではできる選手が増えてますから。また自分でも世界チャンピオンの一番の演技をVTRで見て、どうしたら彼に近づけるのかを研究しますしね。
  このときメンタル面で注意しないといけないのが、「ああ、この人のようにはなれないだろう」と自分の中に限界を作らないことだと思うんです。こんな気持ちだったら、いくら一番の演技を何度見ても決して自分のものにはできないでしょう。だから常に僕の中では、世界チャンピオンも自分も同じ人間なんだから、絶対に追いつけると信じているんですよ。

――日ごろの練習の中でも体調のコンディションによって心理面が左右されると思うんですが、どのようにメンタルコントロールされているんですか。

 僕は、本当に体の調子が悪いときと、気持ち的にだるくて体の調子が悪いように思えるときを自分の中ではっきり区別しています。心理面が原因で調子が悪いと思うときは、無理してでも体にムチを打って激しく動くようにしていますね。そうすると体の動きに合わせて気分も乗ってきますから。
  逆に本当に体の調子が悪いときは、もしやる気があっても最低限の練習にして、早々に切り上げます。なぜかというと、イメージの動きと現実の動きのズレが大きくなって悪いイメージができてしまうからです。この場合技だけに悪い癖がついても修正しやすいのですが、メンタル面にも悪い癖がつくと修正が難しいんですよ。イメージの問題だけでなく「あれ、この技はできていたはずなのに。おかしいな」と不安になり自信を失っていく原因にもなりかねないですからね。だから本当に体調が悪いときは無理はしないようにしていますね。

気持ちを高めていくように音楽テープを編集し、演技前に聴くようにする

――最後に、永山さんの体操以外のときの息抜きを教えてください。

 僕はオーディオ機器、そうですね、スピーカーを集めるのが趣味なので、好きな音楽を大きい音でがんがんかけて聴いています。オフの間のリラックスは試合に向けての大きなエネルギー源になりますから。人から聞いた話ですけど、大きい音で好きな曲を聴くことはリラクゼーション効果があるらしいんです。音楽で思い出しましたが、競技前にもよく音楽を聴きますね。僕の場合、音楽を使うとある程度メンタルトレーニングが可能なんです。テープも自分で編集するんです(笑)。まずはリラックスできる曲から録音して、だんだんリズムのよいやる気のでる曲にしていくんです。試合の時間に合わせて、このテープを聴きながら自分の気持ちをいい方向にもっていくということも僕はしていますね。

《高畑好秀著「メンタル強化バイブル」(池田書店 1999年)より転載》



メンタルトレーナー高畑好秀プロデュース