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剣道

宮崎 史裕 fumihiro miyazaki

1965年生まれ。神奈川県出身。兄・正裕氏の影響で小学校入学後剣道を始める。その後正裕氏と同じ東海大相模高を経て、84年同じく神奈川県警に就職。91年全国警察選手権大会個人戦決勝で正裕氏に2連覇を阻止されて以来、93年全日本剣道選手権、97年世界選手権個人戦の決勝で惜しくも正裕氏に敗れるが、97年全日本剣道選手権で兄に勝ち、優勝。剣道日本一に輝く。

宮崎史裕

「対戦相手の試合での動きを想定して、
それに合わせて打ち込みの練習相手にも動いてもらっています」

試合前には「もっと技を磨いておきたい」という焦りの気持ちをおさえる

――宮崎兄弟と言えば、剣道界最強の兄弟ということで知らない者がいないほどです。試合中は戦法をチェックされたりとか、また試合前でも研究されることも多いと思いますが、そうなるとなかなか勝ちにくくなるということはありませんか。とくに全日本選手権や世界選手権など大きな大会ではどうですか。

 そうですね、一昨年に全日本大会で優勝したということもありますけど、ずいぶんマークされるようになった気がします。でも経験数も増えてきて少しは心に余裕ができてきたように思いますね。最初のころは全国大会に出ても「自分は本当にここで剣道をやってもいいのかな」と思ってしまってガチガチに緊張してましたね。今でも緊張は少しですがしてしまうんです。緊張すると体が固くなって余計な力が入ってしまいますよね。そうすると敏速に体を反応させられないんです。だから試合当日、あまり緊張しないように試合1週間前くらいから工夫するようにしていますよ。

――具体的にはどういった工夫をされているんでしょうか。

 練習時間は体調のコンディションも考えて試合前は減らしていくんです。そのとき、心では「もっと技を磨いておきたい」とついつい思ってしまうんですが、「この試合直前に技のことで焦っても何にもならない。今までやってきたことをすべて出し切ればいいんだ」と心を落ち着かせるようにしてますね。あまり焦った気持ちで技の練習をしても、身につかないばかりか、うまくいかないことでイライラしたり不安になったりしますから。意外に試合前というのは、最後のあがきというか「あれもこれも気になる」という技がいっぱいあるような気がしてくるものなんですよね。
  それと、試合前は剣道以外の日常生活すべてに、家族や周囲の人たちに自由にさせてもらって自分のペースで生活していますね。

――自分のペースの生活とは、どういう感じなんですか。

 単なるわがままなんです(笑)。試合前は剣道でも、私生活でも人から文句言われたり、やりたいことを制限されたりするのが嫌なんですね。試合前に嫌な気持ちというのをいっさいもちたくないんです。それでなくても試合前はピリピリしてますから、ちょっとでも心配事があると、必要以上に心の中に残って案外長く尾を引いてしまうんですね。やはり試合までの間、私生活でも何もかも自分の考えている通りにすべてのことが進んでいくと、試合でも思い通りに試合ができそうな気がしてくるんです。だから遊びたいときはまったく時間を気にせず遊ぶし、食べたいものを食べたいときに食べたり。最近では、僕のこうしたやり方を理解してくれてるのか、周囲の人たちが全面的に協力してくれるので助かってますよ。試合前の気持ちは試合当日の気持ちに影響を与えますからね。

どんなに勝ち続けていても挑戦者の気持ちで試合に臨む

――では、試合当日はどのように過ごされているんですか。必要以上に緊張してしますこともあると思うのですが、そういったときはどのようにリラックスされているんでしょうか。

 僕の場合は、もうすでに負けた選手や付き人と話すようにしてます。兄貴は、僕とは逆で控え室で一人で静かにじっとしてますけど。僕はダメですね。一人でじっとしていると、試合に関してもよくないことばかり考えてしまって余計に緊張感が大きくなってきます。いくら「日ごろの練習をすべて出し切ればいいんだ」と考えていても一人でいると知らないうちに「ああ、ここはこう攻めよう。いや、これではダメだ」とかいろいろ考えてしまっているんですね。でも付き人たちと試合とはまったく関係ない趣味の話とかをしていると、脳が試合のほうに向かないので、あれこれとよくないことを考えなくてすみますからね。本当は兄貴のようにプレッシャーにも一人で向かえるくらいの精神力があれば理想なんでしょうけど。

――試合前とか試合と試合の間に、次に対戦する選手の試合は見られますか。

 僕は次に対戦する選手の情報は収集するようにしているんですね。剣道はあまりVTRなどがないんで、情報は集めにくいんですが、たとえば高知県の選手であれば、四国のほかの県の選手に「○○選手はどういう剣道をするのか」と聞いておくんです。やはり対戦相手の情報を知るというのは心の安心材料になりますからね。でもその情報から判断して、どうも自分が苦手とするタイプだなと思えば、会場でその選手が試合しているのを見ますね。相手のアラを見つけることで安心したいと思うんですよ。
  でも中にはそのアラが見つけられず「こりゃあ、強そうだ。苦しい試合になりそうだ」と思う選手がいるんです。そのときはもうあまりその選手のことを見たり考えたりしませんね。見れば見るほど「勝てそうにないな」という気持ちが強まっていき、どんどんマイナスの方向に心が向かっていきますから。そして最後には「これでは勝てないよ」とマイナスの確信になってしまいますからね。

――事前にできるだけ多くの情報をリサーチされることで安心されるんですね。試合前の過度の緊張状態をなくすにはいい方法だと思います。

 やはりどんなことでもそうですが、知らないということは不安ですからね。ほかにも、剣道はいくつかの会場で分けて試合が行われるんですけど、僕は実際に自分が戦う会場の下見だけではなく、打ち込みまでやるようにしていますね。やはり床の滑り具合や窓から射し込む光の具合、影の出来方などを調べておきます。
  対戦相手だけでなく、こういった要素が剣道では大きいですからね。相手よりはるかに多くの情報を自分はもっていると思えれば、それだけ優位に立てたような気がしてきますよね。

――試合のときは、やはり心理的にも優位に立てるようにされているわけですね。

 基本的にはそうです。情報量の多さだけでなく「明らかに自分のほうが強いんだ」と自分に暗示をかけてそう思えるようにしたいですね。やはり剣道では、心理的な弱さを相手に見せてしまうと、そこにつけ込まれてきますから。だから「俺は宮崎だ」くらいの気持ちはあります。ただ同時に挑戦者の気持ちももつようにしていますね。
  剣道では相手の技を引き出して、その出鼻を打ち込むのが最高の技と言われているんですが、僕はまだまだその域に達していないんですよ。だからどんなに勝ち続けていても「自分はまだまだ挑戦者なんだ」と気持ちを引き締めています。「自分のほうが強い」と思い込み過ぎると、浮いた気持ちになって気の緩みや油断にもつながりますから、こうやって心のバランスを取っています。

相手の喉元を見ることによって相手の全体像が見えるようにする

――試合前には誰かと話をしているということですが、その状態からどうやって集中力を高めていくんでしょうか。

 僕は長く剣道をやっているので、防具を身につけるともう反射的に気持ちは集中していますよ。
  それと試合が始まって対戦相手とにらみ合うとき、僕の場合は相手の目を見ず、相手の喉元に視線を集中させるようにしていますね。これはもう普段の練習のときからそうしてるんですけど。喉元あたりに視線を集中させていると、もちろん視野に相手の目も見えますし、足の動きまで見えるんですね。相手の目に視線を集中すると相手の足下が見えないんです。
  それにこれはお互い様なんですけど、目は心の窓だと思うんですね。心の中で「次はこう打ち込め」と思うと、無意識に目が打ち込もうとしている方向に向いてしまうんです。それに目が泳いでいて心が動揺しているのもわかったりとかね。だから僕は、逆に相手に自分の心の中を悟られないように目線を外しているという部分もあるんですよ。
  集中力ということなら、通常剣道では5分勝負なんですけど、10分くらいなら集中力は持続します。でも昨年の全日本で、お互いに決まらず延長して38分という試合になったんですね。すると慣れていない試合時間のため「早く終わりにしたい」という気持ちの焦りが生じて集中力が切れて負けてしまいました。これは反省事項なんですけど。

――剣道の試合は5分間で2本先取すると勝ちですが、相手に先に1本取られたときと、自分が先に1本取ったときとでは、その後の気持ちの持ち方が変わってくると思います。それぞれどんな気持ちでその後の試合を進められるんですか。

 そうですね。自分が先に1本取ると、そのまま1本で勝ちたいという気持ちが湧いて残り時間を気にしてしまいますね。それに心の中で「せっかく1本取ったのに取り返されたらどうしよう」という気持ちが大きくなります。そういう心の乱れというか、中途半端な気持ちのとき、少し欲を出して「早く決めてしまいたい」とか「2本勝ちしたい」と思ってもう1本取りにいくとちょっとしたミスが生じて相手に取られてしまうことが多いですね。だから守るんだったら徹底的に守りきると心に決めて、それだけに集中するようにしています。
  先に相手に1本取られたときは、剣道は本来「型」重視なんですが、「もう型は関係ない。1本取り返すぞ」と心の中を勝負重視に切り替えますね。こう切り替えるとうまく開き直れてがむしゃらの剣道ができるようになります。本当はきれいな形で勝てるのが理想なんですけどね(笑)。

――ところで、ジンクスとかは気にされるほうですか。

 比較的そうですね。試合前にも必ずやる動作もありますからね。必ずやるのが、四股を踏むことと壁に両手を当てて壁を押す動作です。これは半分は自分に安心感を与えるための、おまじないのような要素がありますね。いつもやっていることを、今日もきちんとやったという安心感ですよね。それとこの動作のほかの意味は、僕は試合前は人と話してリラックスするようにしていますから、その状態から試合に向けての気合いを入れるということです。気持ちを切り替えるためのスイッチのような役割が、この行動にはあるように僕は思いますね。この行動は何でもいいと思いますが、いつも欠かさずやる動作は持つようにしたほうがいいと思いますよ。

試合のことをイメージしてそのイメージに合わせて練習する

――宮崎さんはイメージトレーニングとかはやられていますか。

 いつもというわけではありませんが、試合の2週間前くらいから対戦相手を想定してイメージの中で戦ってみるようにしていますね。先ほどもお話したように、僕は対戦相手の情報はできるだけ集めるようにしているので、その情報をもとにしてイメージの中で相手をいろいろ動かしてみるんですね。相手に攻められて、自分が守っているイメージと、自分が攻めているときに相手が守っているイメージと両方です。これを構えから始めて、両者で間合いを取り合うという感じで、試合のときと同じように順番にイメージしていきますね。
  これは、試合と同じように自分の目で対戦相手を見ているイメージだけを使うようにしています。

――では、練習のときに心理面で注意されていることはありますか。

 僕は、試合で日ごろやってきた練習を出し切ればいいという考えですから、練習のときから試合をイメージしてやっていますね。たとえば打ち込みにしても、本番に対戦相手がこのように動きそうだなという予想イメージをして、打たせてもらう相手に「次はこのように動いてくれ」と伝えてそのように動いてもらったりしますね。これは、やらされている練習という意識ではできないと思います。やはり自分がやるという意識がなければダメでしょうね。だから練習のときには1本1本を大切にイメージして全力を出すようにしているんです。だから今日の練習は何時から始まって何時に終わるかということを考えないようにしているんです。これを考えてしまうと、最後まで体力をもたせようという意識が生まれてしまい、1本1本をどこかでセーブしてしまうものです。こうやって流して時間を消化する練習では、技術面も心理面も絶対鍛えられないと思います。

――練習のときに気持ちが乗らないときとか体調がすぐれないときなどはどうされていますか。

 早めに練習をやめにしてます(笑)。無理して練習をやっても、心の中で「今日は嫌だな」と思ってしまうと、勝手に今日は体が思うように動かないと頭で考えてしまうものですよね。そう考えてしまうと、本当に体が思うように動きませんからね。心と体が空回りしているような感じですよ。こんなときに練習を続けると、どんどん悔しくなってきて心にストレスがたまりますよね。それに技術面に関しても、自分の中に調子の悪いイメージが強く残ってしまいますからね。無理はしないほうがいいでしょうね。その代わり心が乗っているときは、さっきお話したように1本1本気を入れて練習すればいいんですから。

《高畑好秀著「メンタル強化バイブル」(池田書店 1999年)より転載》



メンタルトレーナー高畑好秀プロデュース