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スノーボード

松本 佳之 yoshiyuki matsumoto

1970年生まれ。栃木県出身。89年からスノーボードを始め、92年よりレースに参戦。95‐96シーズンにはデモンストレーターに認定。97年には欧州に遠征し、スイスのナショナルチームに参加してトレーニングを積み、98年にプロ転向。富士アスレチックビジネス専門学校の原田氏に心身ともにサポートを受けている。96‐97テクニカル選手権準優勝、97‐98全日本選手権SL準優勝、98‐99全日本選手権BX優勝。今でも夏はニュージーランド、冬は日本といった生活を続けている。日本を代表するプロスノーボーダーの一人

松本佳之

「イメージの中で滑っている姿を思い浮かべながら
体を動かすことで、体感覚も同時に感じるようにしています」

自分自身で気持ちを焦らせることによって気持ちを高めていく

――スキー競技などでもそうなんですが、天候によるコンディションの違いが、気持ちに大きく影響することがありますよね。とくに悪天候のときなんかは気持ちも滅入ってしまうことってあると思うんですが、そんなときはどんなことに注意していますか。

 確かにコンディションにはかなり影響されますね。ときには気候状況の変化で、次は自分の滑る番だというときにいきなりストップがかかるときがあるんですよ。やはり、いよいよ次だというときは、集中力も気持ちも高まっていますから、ガクッとしますね。そういうときは心理面は一気にゼロまで落ちてしまいますよ。そこまで気持ちが落ちてしまったところで次に天候が回復して「3分後に再開します」と言われても、再度、集中力や気持ちを高めるのが大変なんですね。
  そういうときの僕の方法は、まずはわざと自分自身に「おい、まずいぞ、まずいぞ」と緊張感をあおります。そうやって心の中を焦らすと気持ちが高まってくるんです。そうやってある程度テンションがあがってきたら、プレッシャーをかけるのをやめて、目を閉じていい滑りのイメージを描くようにしています。

――それは短時間で集中力を高める方法ですよね。通常はどのようにされているんですか。

 そうですね。やはり順調に順番が進んでいるときに集中力を高めるのとは違いますね。ふつう、僕は自分が滑る30分くらい前までは他の選手たちと話をして心を気楽にさせて緊張感を解消しているんですね。
  でもいよいよ滑るまであと30分というときには、他の選手と話をするのをやめて、目を閉じて正座したり開脚したり、体を前に倒したりして精神統一をするようにしています。そのときは、顎を引いて頭を落として静かな気持ちで「プ・プ・プ・ポーン」の音で勢いよく体を投げるようにスタートを切っているイメージを強く描くようにしてますよ。通常はこのようにして集中力や気持ちを高めていきます。

自分に有利なことをいろいろ探してプラス思考になるように心がける

――他の選手と話すことで緊張を解消されているというのはよく聞きますね。他に何かリラックス法はありませんか。

 そうですね、緊張する原因の一つとして自分の心の中で、その大会のレベルと自分のレベルを比較して自分が下にいると感じるというのがあると思うんですよ。僕はそう感じてしまったときは、技術面以外の別の面でいい材料を探すようにしてます。
  たとえば、他の選手のボードよりも自分のボードのほうがワックスの滑りがいいとか、他の選手たちよりも滑っている日数が少ないかもしれないけど自分は人一倍トレーニングを積んできたので筋力では負けないとか。コース状況が悪くてもそれは他の選手も同じだ、でも自分は他の選手よりも今以上のコース状況の悪さを多く経験しているとか、いろいろ探してプラス思考になるように心をもっていきますね。

――技術面以外のいい面を探してプラス思考にもっていくというのはよい方法ですね。常にそういったプラス思考で考えるようにしているんですか。

 そうですね。たとえば、BX(ボーダークロス)なんかでは、いっしょに滑るメンバーのうち、3人は知っている相手で、プラス2、3人未知の選手がいるとしますね。でも3人には過去の大会で勝っているんです。しかし、得てして知らない2、3人に注意が向いてしまい「彼らは自分よりも速いんじゃないかな」と思い不安感が大きくなりますよね。そういうときは、意識して注意を知っている3人に向けて「でも今まであの3人に勝っているくらいだから、今回も大丈夫だ」と心に自己暗示をかけるようにしています。あとは、僕のスポンサーになっているOP(オーシャンパシフィック)の冠大会などでは、周りの人も知っていて気分的にも楽なので、ここにいる全員が自分一人を見てくれているんだと勝手に考えて「ここにいるすべての人たちに自分の滑りを見てもらおう。みんな自分一人を注目してるんだから」と自分の心の中で、勝手に自分をヒーロー状態にさせたりもします(笑)。
  ふつうに考えれば、スポンサーの冠大会では負けが許されないからプレッシャーが大きいんですけど、そのプレッシャーに押しつぶされると本当に負けるので、プレッシャーをプラスに転換する工夫が大切なんですよ。

――そのプラス思考を行うときに松本さんがやられてるスタイルがあるそうですが。

 いつもというわけではないんですけど、背筋を伸ばして両手を組んで座禅のようなスタイルで目を閉じます。そして頭上にある太陽から光り輝く光が自分に降り注いできて、その光が頭のてっぺんから体内に入り込んで首、肩、胸、腹とだんだん下に降りていき、体全体がその光に満たされるのをイメージします。そのときに僕はその光はプラスのエネルギーに満ちあふれていて、そのプラスエネルギーが体の隅々まで行き届いているとイメージすることで体全体でプラス思考ができるんだと確信するようにしていますね。
  それと試合前日とかは、できるだけ安心材料を探すようにつとめます。僕は板の管理を専属のチューンナッパーにお願いすることも多いんですが、必ず自分でも再度滑り具合を確認します。そしてそのときに何も問題なかったら、「これで明日も心配ない」と心を安心させるわけです。プラス思考をするためにも、少しでも心配材料を減らし安心材料を増やしておきたいですから。

――他の選手たちと話す機会が多いと、選手たちの間で心理戦なんかありませんか。おせっかいなアドバイスをしたりとか(笑)

 ええ、よくありますよ。試合前の練習で他の選手がいい滑りをしているなと感じると「いい滑りをしてるね」とわざとその選手に声をかけてプレッシャーを与えたり「膝の角度がいつもの滑りと今日は違うね」と言って相手に不調の印象を与えたりとかいろいろありますね。いずれにしても試合前は誰でもナーバスになっていますから、人から言われた言葉には過剰に反応するものなんですよ。
  僕なんかは「いい滑りしてるね」と言われたら「そう見えるでしょ。本当に絶好調なんだよ」って心理的に切り返して相手に逆にプレッシャーをかけたりしますね。自分が滑る以上は誰よりも心理的に優位に立っていたいと思うものですから、試合前のお互いの心理的な駆け引きは重要な要素でしょうね。

レース前にしっかりイメージを作ってレース直前までそれを反芻する

――スラロームのレース前にコースの下見ができるそうですが、そのとき心理面で注意されていることはありますか。
  スラロームでは、コースに立てられるポールの位置が毎回変わるし、起伏もすごい変化があるので、許された45分くらいの時間内で2本ほど下見をします。この下見は滑ることが許されてないので、ゆっくりと移動していかないといけないんですね。まず1本目は、できるだけゆっくりとコース状態やポールの位置や数を確認し記憶することに全神経を集中させます。そして2本目は、そのコースをどのように滑るかのイメージ作りに集中します。それぞれのポールのコーナーをどのような角度やコース取りで入るかなどを一つ一つイメージしていきますね。このとき、起伏に関しては「トン、トン、トーン」「ガッ、ガッ、ガーン」といった感じですね。そして時間や滑るリズムに関しては、(手を左右に振りながら)「いち、にい、さん、し~い、ご~お、ろく」というようにイメージの中に感覚を取り入れて覚えるようにしてますよ。
  こうして作り上げたイメージと順番待ちをしているときの全走者の実際の滑りを比較して最終確認終了となるわけです。もし自分よりも格下の選手が、あるコーナーで自分のイメージよりも鋭い角度で入ったりすると「自分が思ってたより簡単なコーナーなんだな。だったら自分はもっと鋭く切り込もう」とその部分のイメージを修正します。こうして最終イメージを完成させてから僕は滑るようにしてますね。
  でも最初に言ったように、自然が相手ですから、スタートが遅いとコースも乱れるし、気温や大洋の位置によって雪の溶け方も違ってきますよね。中距離レースは、トータルのペース配分が大切なんですね。だから自分の得意なコースポイントと苦手なコースポイント、そしてコース状態のいいポイントと悪いポイントを頭の中で計算します。自分が得意でコース状態もよければそこのポイントはパワー全開でぶっ飛ばしていこうとか、苦手でコース状態も悪ければそこは少しオーバーランしてでも安全策でいこうとか、自分が滑る前にいろいろ組み合わせて考えておきますよ。
  やはりスタートからゴールまですべて100の力は出せるものではないんで、無理して攻めて転んでしまうよりも、少しオーバーランしてタイムロスしてもちゃんと滑るほうがいいし、そのロス分は攻め所で全開にして取り戻せばいいんですから。こうした計算もイメージの中で滑りながらするようにしていますね。

リアルな感覚をもつために体を動かしながらイメージトレーニングをする

――お話を伺っていると、いろいろなところでイメージを活用されていますが、どんな感じでしているんですか。たとえば先ほど言っていた座禅のような姿勢で行うんですか。それとも体もいっしょに動かしながら行うんですか。

 そうですね、僕はいすに座ってやるときはまず目を閉じて体を使ってイメージしますね。ターンをイメージするときも本番と同じように肩を斜めにして、膝も折ってという具合に体を動かしながらイメージしますよ。実際は遠心力があるので、体の斜度も壁につかまって同じように角度をつけたりもするし、鏡に全身の動きを映したりもします。やはりイメージの中の動作の映像に加えて、僕の場合はその動作をするときの体感覚も同時に感じたいと思うんですよ。シーズン中であれば、試合前でなくてもよくイメージトレーニングはしますね。
  そのときに使う映像は、誰も滑っていない雪質のよいゲレンデがまず目の前に広がっているイメージから始めます。そして滑り始めるわけですが、最初のターンから最後まで思い浮かべるより「まず一つ目のターンに入る」ための映像ですね。このイメージの中で僕が一番大切にしているのは、頭の上から足の指先まですべての力をいかにしたらボードに伝えられるかという点です。それと左右のターンのリズムをメトロノームのように均等にするという2点ですよ。実際に滑るときも、自分の滑ったボードの跡が左右対称か見て確認もします。それくらいこの2点はスノーボードの中でも大切なので、日ごろから「できるぞ」というイメージ作りが大切だと思いますね。だからイメージトレーニングは欠かせませんよ。

――松本選手はイメージトレーニングにVTRなどは活用されていますか。

 はい、使うこともありますね。外国の選手たちのVTRを見て、「この選手の動きのこの部分は自分の中に取り入れられる」と思ったら、自分の動きのイメージの中にその部分だけを変えてみて繰り返しイメージを重ねたりしますよ。スノーボーダーは、10人いれば10の体格がありますから、その人にあった滑り方をするのがベストなんですね。だから一人の選手の動きをすべて取り入れるということは無理なんですよ。だからパーツごとに見て、この部分の体の使い方は自分にも取り入れられるんじゃないかな、というところはイメージの中に取り込んでみますね。あとは練習のときにVTRを撮影し、タイムも計るときがあるんです。そういうときは、練習であっても試合を意識して3本だけ思い切り集中して滑るんです。その3本のVTRの映像とタイムを比較してみて「自分では2本目の滑る感じが一番いいと思ったんだけど、タイムは1本目が一番速いんだ」と自分の中の滑るイメージや体感覚と、実際のそれとのズレを修正したりもします。そうやって気づいたことや、よいときの滑る感覚やイメージをメモに文章で書いておいて大会のときに読むようにしています。メモ用紙はいつもウエアの中に入れています。

――最後になりますが、シーズンオフはどのように過ごされていますか。

 選手の中には一年中オフを作らず日本、アメリカ、ニュージーランド、ヨーロッパ、カナダ、そして日本へ、と転戦する人もいますけど、僕は日本、ニュージーランド、日本という具合に間にオフを入れるようにしています。そしてオフの間はスノーボードのことを考えずに趣味のサーフィンをやったりして心の中の疲労をとるというか一度心の中をカラにして、次に新鮮な気持ちでスノーボードに集中できるようにしてますね。そういった時間はスノーボードとは関係のない無駄な時間に思えるんですけど、シーズン中のいろんなモヤモヤがリセットできる貴重な時間だと思っています。

《高畑好秀著「メンタル強化バイブル」(池田書店 1999年)より転載》



メンタルトレーナー高畑好秀プロデュース