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極真空手

数見 肇 hajime kazumi

空手家

1971年生まれ。神奈川県出身。小学校1年生で極真会館本部に入門。高校進学後、城南支部蒲田道場に移り91年東北大会優勝、92年第24回全日本大会初出場で準優勝、翌年全日本選手権初優勝を果たす。その後95年全世界大会で準優勝、96~98年全日本選手権で3年連続4度目の優勝を飾る。99年極真空手で最も厳しくかつ最も権威があると言われる荒行・百人組手を一本勝ち16、技あり15、優勢27、引き分け42で完遂した。達成は史上8人目の快挙。

数見肇

「丹田を意識しながら、ゆっくりと大きく腹式呼吸をすることで、試合前の緊張を解消しています」

極真空手に伝わる息吹の呼吸法で平常心を保つようにする

――数見さんは96年から3年連続で全日本大会を優勝するなど輝かしい成績を残されていますが、それだけに他の選手たちのチェックも厳しいものがあると思います。とくに大きな大会というのは、そういった研究に対して立ち向かっていかなければならないというプレッシャーもあるのではないでしょうか。

僕が初めて全日本大会に出場したときは、周りは強豪揃いで本当にころされるんじゃないかという恐怖心があったんですね。だから勝ち負けの不安なんかなくて、生きて帰れるのかというそれだけだったんですよ。だから心の中でも「勝ち負けよりも今までやってきたことをすべてだせればいいんだ」という攻めの気持ちで大会に出ていました。でも今は、何年も全日本チャンピオンを続けているので、「チャンピオンとして恥ずかしい試合はできない」という守りの気持ちというか、追われる立場としてのプレッシャーが大きいですね。だから試合の直前は、一人で誰とも話さず、横になって腹式呼吸をしながらよけいなことは考えないようにして「今は昔みたいに殺されて死ぬわけじゃないんだから、今まで以上に攻めていこう」とか「今まであれだけ苦しい稽古してきたんだから、自分を信じて普段通りにやろう」というように自己暗示をかけて守りの気持ちを切り替えて攻めの気持ちをもつように意識していますね。

――ディフェンディングチャンピオンには、チャレンジャーにはないプレッシャーがかかると言いますが、そういったときは相当緊張されるんじゃないんですか。

 僕はこの極真空手をスポーツというよりも武道と考えているので、自分の目標としてはどのような状況下でも平常心を保てるというのが理想なんですよ。でも試合になると、勝ち負けの要素がスポーツ的になってしまい「もし負けてしまったら……」と不安や緊張が大きくなりますね。
  僕の緊張解消法は基本的には腹式呼吸です。やはり緊張しているときは、自分の呼吸が浅く速くなっているので、ゆっくり大きく腹式呼吸をしますね。この方法は、眉間の間に第三の目があるとイメージして、その目で丹田を見ているイメージをするんです。
そのときは背筋をピシッとまっすぐにして姿勢を正します。この背筋に関しては、このときだけでなく、稽古のときも普段道を歩いているときも正すようにしてますね。こうして、大きく息を吸って、少し止息して、ゆっくり吐いて、また少し止息してというのを繰り返すんです。

――先ほど練習を見学させていただきましたが、他の武道には見られないような呼吸法もされていましたね。

 そうです。極真空手には息吹という方法もあります。まず両足をやや広げて立ち、足を内股にして両腕を胸の前あたりで、肘を内側に曲げて、ゆっくりと下腹から上に押し上げるようにして息を吐き出します。そのとき、息をゆっくり吐きながら、足も手も内側に掛かっていた力をゆっくり外側に賭けていくんですよ。そうして外側に力が入っていくと、お知りの筋肉がキュッと締まります。それから睾丸を上に押し上げるようにして息を吐き出し、最後に残った息を「ハッ」と一気に吐き出すんです。この最後の「ハッ」は攻撃するときにも大切なものなんですよ。「ハー」という息の出し方だと突きや蹴りなどの攻撃に力が入りません。やはり「ハッ」というのが一番体にも力が伝わりますね。息吹や丹田複式呼吸をしていると心理的にもリラックスできます。

ピンチをチャンスと考えられるようなプラス思考で練習や試合に臨む

――では、逆にトーナメント戦で次に自分と対戦する相手選手の試合は見られますか。

 僕は見るようにしてますね。ただその相手が試合の中でいい動きをしていると強そうに見えるものなんですよ。でも僕は心の中で相手を過大評価も過小評価もしないように意識しています。「強そうに見えるけど、そう見えるだけだ。実際に向き合ってやってみないとわからない」と自分に言い聞かせて相手の試合を見てますね。相手を過大評価してしまうと不安になるし、過小評価をすると油断が生じるので、常に実際対戦するまでは何とも言えないというか、いっさいの先入観を排除してますよ。そして自分の意識を相手の強弱よりも、相手はこの試合で腹に何発もパンチを食ってダメージが残っているだろうなとか、こういう攻め方に弱いんだなというように相手の弱点を探すほうに向けていますね。

――お話を伺っていると、何事においてもプラス方向に考えるようにされているようですね。
  道場でも稽古は本当にきついんですよ。心臓が飛び出しそうなくらい苦しいんですけど、へこたれずやるわけですね。やはりそれをやるには心の支えが必要になるんですよ。それで僕の場合は日の丸を背負って世界大会に出場し、日本代表として日本発祥の極真空手の頂点を極めるために外国人選手には絶対に負けられないという大きなプレッシャーを逆にプラスのエネルギーに変えてそれを心の支えにしていますね。
  それとケガをしても落ち込まず、感謝するようにしてます。昔、試合の3か月前に右腕を骨折したんですよ。そのときに発想の転換をして、今まで左の突きがあまりよくなかったんだから、この際だから思い切り左腕だけで徹底的に突きの練習をしようと思ったんです。そうしたら、上達したんですよ。
  いいこと、悪いことなんて表裏一体だと思うので、前向きに物事を考えるほうがいいですよね。本当に考え方一つで心の状態も全然違ってきます。ピンチをチャンスとして考えられるようにこれからもしていきたいですね。

――数見選手は試合中、苦しい顔や弱った顔を見せずまったく表情を変えないことで有名ですよね。それも意識的にやられているんですか。

 そう言われていますね。これは小さいとき僕の親父から「痛い」とか「寒い」とかグダグダ言うなと叱られてきたからというのもありますね(笑)。とにかく弱気を出すと怒られましたね。ただ、やはり試合中意識して苦しい表情を見せないようにもしていますよ。試合中は相手も自分もお互い苦しいわけですよ。そういうときは最後は気持ちの勝負になります。だから心や体の苦しさを顔に出して相手に悟られると相手は「ここが攻めどきだ」と一気に攻めてきますからね。こういうときの相手の心は今までの苦しさと打って変わって、加速的に攻撃心が強くなってくるんですよ。心がのってくるって感じですかね。
  それに苦しい顔をすると、心理面にもその苦しさが倍になって戻ってくるものなんです。以前試合中、腹に何発かパンチを受けて死にそうに苦しかったことがあったんですね。そのとき表情を変えず我慢していたら回復したんですよ。体の状態というのは心理面でいくらでもコントロールできることをそのとき実感したんですよ。

八巻選手とのスパーリングが大きな自信につながった

――では練習のことをお聞きしますが、不調な日は練習を途中でやめられるほうですか。それとも続けるほうですか。

 調子の悪い日というのはありますね。やってもやっても上達しなかったり、組手の相手に蹴っても蹴っても効かなかったりするときは、だんだん力みが強くなってスピードが落ちてさらに調子が悪くなるものなんですよ。そうなると「何なんだ。おかしいじゃないか。どうしたんだ」と自分に対して腹が立ってくるんですね。そういうときは、その場で止めて「今日はたまたま調子の悪い日なんだ。まあ仕方ないさ」と納得させます。そして「次の日、次の日。明日になったら調子も戻ってくるよ」と気持ちを切り替えますね。
  どうも納得できないから、徹底的にやるという深追いは僕は絶対にしません。深追いすると悪いイメージも残るし、心にも「ダメだダメだ」と無意識に暗示をかけてしまいますからね。そういう心の状態が強まると本当のスランプにつながりますからよくないですよ。ただ徹底的に深追いして、最後に納得できる形で終えるんだったら、それもいいのかもしれませんけど、僕の場合はそれはしないですね。

――そういう不調のとき、よいイメージをもつような工夫はされていますか。

 よいイメージというのとはちょっと違うかもしれませんが、8年前の世界大会のときに、僕はまだまだだったんで出場できなかったんですけど、出場する八巻(建弐)さんのスパーリングパートナーに選ばれて対戦したんですよ。最初はボロボロだったんですけど、だんだんもちこたえられるようになっていったんですね。それが僕の心の中に大きな自信になっているんですよ。だから試合前に不安なときや、不調なときは、あのスパーリングと比較して心の中で「あのときにあれだけやれたんだから今回も大丈夫」とか「あのときに比べれば今回は軽いもんだ。自信をもっていこう」と自己暗示をかけてますね。心の中に自信がもてることが一つでもあれば、気持ちも大きく違ってきますよね。

100%理想型のイメージをもち実際の動きとのズレを修正する

――ところで、先ほどやられていた練習の中で、気功のような動きがあったのですが、気功を取り入れられているのですか。

 気功といっても、気でエイッと相手を投げ飛ばすというようなものではないんですね。体内の気というかエネルギーを活性化させるための練習なんですよ。ゆっくり腹式呼吸しながら、手の平を下に向けて、川が流れているのをイメージします。そしてその川の上で、手の平で木を押さえてるイメージを描きます。このとき、イメージの中で押さえる力が強すぎると木は川の中に沈むし、弱いと木は流れてしまします。そのちょうど中間くらいの力で木を押さえるようにして手の平を振動させるという方法です。
  ほかには、湖の上で船の先頭に立っていて、手が伸びて指先が湖底に伸びてその力加減で船が浮いたり沈んだりするのをイメージしながら行う方法もあるんですね。この僕たちがやっている気功は、とてもイメージが大切だと言われているんですよ。

――極真空手の技術の部分でも、この気功の技術同様にイメージを活用されていますか。

 僕はイメージを取り入れてますね。たとえば、後ろ回し蹴りをするときは、コマが瞬間的にぐるっと勢いよく軸がぶれずに回っているイメージなどです。ほかにはパンチをするときに軽く引き手を後ろに引くんですけど、このときは突き手と引き手の両手で雑巾の両端を持って、その雑巾を瞬間的にバチッと引きちぎるイメージですね。あとは技を繰り返すときは、瞬間に1ミリでもいいから前に出ることが大切なんですけど、このときのイメージは大木が倒れたり、傾いたりせずにグッと平行移動しているというものですね。これらは技を教えるときに役に立ったりもします。
  そういったイメージとは別に自分の心の中に100%に近い技の理想形があるんですね。そのイメージは対戦相手もいず、自分一人の動きだけなんですけど。その映像は第三者の立場でテレビの中で自分の動きを見ているような感じです。それで、稽古や試合で実際自分がどのように動いているのかVTRで撮影し、理想型のイメージと実際の動きのずれを修正するようにもしてますね。そのときには全身が映る鏡も利用したりします。

百人組手では心の中の逃げ道を断ち切っていた

――試合前にはそういったイメージを活用されますか。対戦相手と自分をイメージで戦わせたりとか。

 いや、そういったイメージはないですね。ただ極真空手には試し割りというのがあるんですが、何枚も重ねた板を割るんですね。この板がなかなか割れないんですよ。
  だから呼吸を先ほど言った丹田腹式呼吸にして集中力を高めておいてから、一番上の板を割るイメージではなく、手が何枚もの板を刃のように切り裂いて下まで突き抜けている、すべての板が割れているイメージを強く描くようにしてますよ。そうやってイメージしておいて、最後には大声を出して実際に割ります。大声を出すと自分のもっている力以上の力が出るものなんですよ。

――これはぜひお聞きしたいんですが、先日極真空手最高の苦行と言われている百人組手を完遂されましたよね。通常の意識レベルでは考えられないような苦しみだったと思いますが、そのときはどのような心理状態になるものなんですか。

そうですね、百人組手の1か月くらい前から「本当にできるのか」とか「達成できたとしても体はどうなっているんだろうか」とか非常に不安や緊張が大きくなりましたね。それから僕の場合は百人達成するのに4時間半くらいかかりましたから、何か出口のないトンネルに入り込んだ感じでしたね。倒しても倒しても次々に対戦相手が出てきますからね。もう途中から心理的にも追い込まれて何が何だかわからなくなりましたよ。そんな中で集中力を維持し続けないといけませんからね。だから組手前も組手をやっているときも「百人は絶対達成するんだ」という強い信念と「自分が百人を途中でやめるとしたら、それは死ぬときだ」と心の中で逃げ道を断ち切るようにしました。人間は基本的に弱いものですから心の中に少しでも弱さを残しておくと妥協してしまいますから。

《高畑好秀著「メンタル強化バイブル」(池田書店 1999年)より転載》



メンタルトレーナー高畑好秀プロデュース