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新体操

川本 ゆかり yukari kawamoto

バルセロナ五輪代表

1972年生まれ。東京都出身。小学校5年からふじしま体操クラブで新体操を始める。87年世界選手権日本代表決定競技会6位入賞、同年全日本中学新体操選手権優勝。88年藤村女子高に進学。同年ソウル五輪代表選考会3位、全日本2位に輝く。90年全日本選手権優勝。91年東京女子体育大学に進み、秋山エリカの指導を受ける。同年ユニバーシアード大会で縄と輪で2位。92年バルセロナ五輪代表。94年広島アジア大会は金メダル。全日本選手権5連覇、全日本学生選手権4連覇を成し遂げる。

川本ゆかり

「どんな演技をするのかを決めたら必要な課題をノートに書き出し、
毎日の練習の中で一つずつクリアしていきました」

試合は大きな目標のための一つの通過点として考える

――新体操と他のスポーツとの一番の違いは、新体操が「採点制」の競技であるという点です。他のスポーツ選手たちの話を聞いていると、他の選手たちへの競争心や闘争心をバネにして集中力を高めたり、逆にそんな思いから生まれる緊張感や不安を自分なりに和らげたりする工夫をされていました。川本さんの場合はどのようにして不安や緊張を解消されていましたか。

 私は、練習の量で不安を取り除いてリラックスするタイプでしたね。おっしゃるように、新体操という種目は、他のスポーツと違って審判の主観で採点されるので、対戦相手もいないんです。それに種目も5つあって1年ごとにその中の4種目が選ばれて試合が行われるので、自分のやることが決まっているんです。まさに自分自身との戦いなんですね。
  やることが決まっていて、対戦相手が直接いないということは、練習の中で黙々とその種目の完成度を高めていかなくてはいけないんですね。それはそれで心理的につらいことなんです。大会直前に、「この種目は、練習のときに何とかできました」というレベルでは、ものすごく不安なんですよ。

――そういった不安を取り除いてリラックスするためにどのような工夫をされていましたか。

 次はこの大会というときに、私はまずその試合でどのように演技をするのかを決めます。何をおいてもますこの点を明確にします。そしてその演技をするために必要なバランスや動きといった課題を一個一個、10項目くらいノートに書き出すんです。この課題を頭の中で考えているだけだと、いいかげんになったり、あいまいになったりするんで、書き出すようにしていたんですよ。それを毎日の練習の中で一個ずつクリアしていくんです。
  こうして一日の練習の目標を設定して、クリアしたらノートに印をつけます。この印をつけられたときは、夜、安心してすっきり眠れるんです。でもクリアできないと、夏休みの宿題のように積み重なって大変なんです(笑)。

――課題を次々とクリアして印をつけることができれば、それが試合前のリラックスにつながっていくんですね。

 そうですね。大会前にそのノートを見て課題がすべてクリアになっているのを見ると、安心できるんです。でも、全部をクリアできるわけはないんで、不安なまま本番を迎えることもありましたよ。
  ものクリアできて印をつける作業は、100%完成したときにつけるものなので、何とかできたという状態ではつけられません。だから全部印がつかず不安が残るときは、開き直るようにしてますね。「とにかく後戻りできないし、やってみるしかないね。やっちゃえ」(笑)と心の中でマイナス思考を追い払います。そして「これは、あくまで通過点。まあこれが今の自分の実力なんだから、それをすべて出せればいいじゃない」と心の中で自分に話しかけるんですよ。

試合前には、本番の演技時間と同じ流れになるように、ふだんから集中力のリズムを作る

――心の中でその大会を通過点と考えるのがポイントなんでしょうね。

 私の場合は、その競技人生の中で大きな目標を設定するんです。まあ、それがオリンピックだったんですけど。それからその大きな目標から逆算して試合を組んでいくんですね。高校のときだと、全日本選手権から関東予選、そして都予選というように考えるんです。どの大会も同じようにがんばっているので、どの試合も緊張感はあったんですけど、逆に「この大会は将来の大きな目標達成のための途中段階なんだ」というようにも思えたんです。それぞれの大会が、今の自分のすべてと思ったら不安でつぶれてしまうと思いますけど。この試合が将来へのワンステップに過ぎないと思うと、開き直りやすいんですよね。

――試合前に気持ちをリラックスさせる方法はありましたか。

 大会会場に入る前の交通機関の中などで音楽を聴いていました。その音楽も日ごろからよく聴いている曲です。自分の中で、意識的に日ごろと変わらない心の状態を作っているんでしょうね。あまり早い段階から試合のことを考えていると、いざ会場に入ったときに疲れてしまいますから。でも音楽を聴いていると日常の感覚になれて、試合とはまったく別のことを考えられるんです。そうやって頭を休めてリラックスするようにはしていました。

――演技直前にはかなり集中力を高める必要があると思うんですが、何か方法はありましたか。

 新体操の演技は1分半の時間で行うんですね。でも日ごろの練習では、その1分半のために4、5時間も練習するわけです。その長い時間の中で何種目もの演技を何回も繰り返していると心の中でそれに慣れてくるんですね。でも試合のときは、午前に2種目、午後2種目の計4回しか演技をしないわけです。すると日ごろの何時間もの練習に慣れていると、その4回だけに集中力を注ぐのが難しくなってくるんです。だから、試合が近くなると、自分の本番の演技時間はわかるので、試合日と同じ流れになるように、ふだんから集中力のリズムを作るようにはしていましたね。

試合当日の雰囲気を前もってイメージして当日の心のリズムを作る

――試合前日に合わせて心のリズムを作っておくのは大切ですよね。試合直前はどのように過ごされていましたか。

 自分一人の心の状態を作る訓練はしていました。練習場では、多勢の部員がそれぞれの演技曲をかけていてかなり騒がしいんですよ。そんなときに自分の頭の中で、自分の演技曲や自分の演技の動きを集中してイメージするんです。最初は気が散ってしまって難しいんですけど、慣れてくると多勢の中でも自分一人の世界が作られてくるんですね。だんだん周囲の雑音が別世界のように思えてきて、集中力が高まるとそうした雑音が聞こえなくなってくるんです。逆にまったく静かな場所でも同じ方法を実践しましたけど、静かすぎるのも集中力を高めづらいものなんですよ。

――自分の演技するイメージによって集中力を高めるというのは興味深いですね。

 演技のイメージだけではなくて、たとえば試合当日の自分自身の行動を順序を追ってイメージしていましたね。
  国内での大会会場だと決まった場所で行われるので、まずその場所や会場の雰囲気を思い出します。次に体育館の外にいる自分からイメージし始めて、次に体育館に足を踏み入れたイメージ、そして大会が開かれているフロアに入って観客を眺め、目の前で誰かが演技しているイメージを、そしてその選手が演技を終えて拍手が起きて、いよいよ次に自分の番がくるイメージを描くんです。
  その時々の気持ちの状態を味わいながら、その最後の場面で体験するようにしています。そうやってイメージを何回も繰り返すことで当日のための心のリズムを作っていくようにはしていますね。

VTRを使って自分のイメージと客観的なイメージのずれを調整する

――ところで、イメージトレーニングのようなことはされていますか。

 技術的な面ではイメージを活用していますね。クロスカントリーもそうですが、やはりジャンプはイメージの要素が強い競技だと思いますよ。
  僕は今まで経験してきたジャンプの中でも会心のジャンプというものを常に心の中に残すようにしてるんです。心の中に残すときに活用するのがイメージなんですよ。それもスローモーションのような映像ですね。そのイメージは自分がコース台から滑って飛んで下を見ている縦の映像ですね。横からのイメージじゃないです。
  試合のときに自分の番が近づいてきて、そろそろ自分の番だなと思うときに、上からジャンプ台を見ているんですけど、スタートする前には一度目を閉じてよいジャンプのイメージをするんです。助走からジャンプ、そして着地するまでをイメージ体験しておくんで
すね。そして自分が実際にジャンプするときには、そのイメージに合わせて飛べばいいという感じで取り入れてますね。

――イメージトレーニングにVTRは活用されてますか。

はい、使います。VTRで自分のジャンプを客観的に見るようにしています。やはりジャンプのテクニックを最大限に伸ばすためにはVTRは欠かせませんね。なぜかというと、ジャンプの選手たちというのはジャンプ台を縦にしか見られないわけですよ。逆にコーチは横からしか見えないですよね。ここで選手とコーチのイメージが違ってズレが生じてくるんです。
  だから僕はこのズレを修正するためにも自分のジャンプを横から撮ってもらって、自分の中にある縦のイメージと横からのVTR映像を比較しながら何度も見ますね。そうやって横と縦のイメージをしっかり頭に中に入れることが大切だと思います。

演技のイメージトレーニングでは不安になったところをメモしておく

――今おっしゃったのは心の部分にウエイトを置いたイメージトレーニングですが、演技のイメージはどのようにされていましたか。

 私の場合は主に寝る前にやりましたね。試合が近くなってからですけど。
  まずベッドの上で目を閉じてリラックスして、4種目の順番に合わせて曲と動きをイメージしていきます。まず最初の足の一歩の出し方から順々に丁寧に動きを追っていきます。自分の演技をもう一人の自分が見ているような感じですね。
  それ以外に自分が主観的な立場に立ったイメージを描きます。最初のイメージが自分の演技の全体像を見るのに対して、これは身体のパーツごとの動きや、それに伴う肉体的な感覚を確かめるといった感じでしょうか。そうやってイメージしていくと、「あ、失敗した。ここは不安だ」というところが出てくるんですね。そうしたら、すぐにその場面をノートに書き留めておいて、次の日の練習で実際に確かめるようにしています。
  イメージの中で失敗したところは、実際にやってみるとやはり失敗しますから、練習の中で克服していきます。このイメージトレーニングは体育館での練習終了後に大の字になってやることもあります。

――イメージトレーニングでVTRを利用されることはありますか。

 ええ、ありました。たとえば日ごろの練習の中でコーチから技術面に関して「ここはもっとこうしたほうがいい」と言われたりしますね。でも私自身は「今のままのほうがいい」って思うこともあるわけですよ。こういうとき、そのコーチから注意を受けた技術をVTRで撮影してみるんです。そしてそれを見るとコーチの言う通り、やっぱり変な動きなんですよ。自分で自分の姿を見られませんから、自分はこうやって動いていると思っていても実際は違っていたりするんです。手を上げる位置とか、足を上げる角度とか。パーツごとだと鏡でも確認できるんですが、やはり新体操は全体の動きが一番大切で、それを作るためにそれぞれのパーツの動きが重要になってくるので、VTRはフル活用しています。そしてそのズレを自分にフィードバックして、イメージと体のズレを一致させるようにしていました。

――試合のVTRはよく見られましたか。

 実は私は、バルセロナ五輪で自分の考えるような戦果を挙げられませんでした。周囲からメダル獲得の期待をされ、それに応えることもできなかったんです。自分ではかなりショックで、もう新体操をやめようと思ったんですね。
  そのとき、コーチからオリンピックでの自分の演技が収録されたVTRを見せられたんです。私は「もう新体操はやめるんで、VTRなんか見たくない」と言ったんですけど。でも、そうしたらオリンピックの選手村へ入ったときから、演技を行い敗れるまでの心や感情の動きがVTRを見ることで鮮明に思い出され、悔しさが沸いてきたんですよ。それまでは心の中をシャットアウトして、その悔しさを隠してたんでしょうね。
  VTRがそれを表面化させてくれて、もう一度やり直そうと思えたんです。それが広島のアジア大会での好成績につながったんです。

どんな状態のときでも本番を迎えられるように気持ちが乗らなくても練習は休まない

――心理状態や身体の状態の不調で、練習のときに気持ちが乗らないということはありませんか。

 よくありましたね(笑)。新体操の選手といっても練習以外の時間のほうが多いでしょう。プライベートで嫌なことや悲しいことがあれば、練習も気持ちが乗りません。でもそれをできるだけ防ぐために、練習前に友人やコーチに相談したりグチったりして発散するようにしてますね。他人に言えないような内容のときは、自分の言いたいことを紙などに書きなぐって、その感情を紙に移して発散させていました。

――そういったときは練習を休まれるほうでしたか。それでも欠かさず練習をするほうでしたか。

 私はかぜで体がふらふらしていても、イライラしていても練習は休まずしていました。そうしたことが原因で気持ちが乗らなくても「そんな状態で自分はどれだけやれるんだろう」とか「いったいどんな演技になるんだろう」とか考えてるんですけど、とにかくどんな状態でも演技をしてみるんですね。試合展開を試合前にイメージしてみても、いざ当日になってみると、いろいろ状況の変化がほかから加わることも多いわけです。そうなったときでも、気持ちが乗らないときにあれだけの演技ができたんだから大丈夫、と心に余裕や自信がもてるんですよ。
  どんな状態でも十分な演技ができるように練習しておくことが、本番の大会のときに役立つと思いますね。

――最後に、大会本番のときに心理面で最も大切だと意識されていることは何ですか。

 他の選手と自分とを比較しないということです。以前は試合中、自分の前に演技している選手を見ていて、「うまいな、もしかしたら自分はダメかも」と自信をなくしていました。でも「人は人。自分は自分。自分のやるべきことをきちんとやればそれでいいんだ」と考えるようになってからは、自分の前の演技者を見てもその選手の上手さを認められます。その上で自分のことも認め、やるべきことをやろうと思えるようになりましたね。以前のように自分と他の選手を比較させて、心理的に不安や恐怖を感じるようなことは完全になくなりました。

《高畑好秀著「メンタル強化バイブル」(池田書店 1999年)より転載》



メンタルトレーナー高畑好秀プロデュース