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野球

星野 伸之 nobuyuki hoshino

元プロ野球選手

1966年、北海道生まれ。旭川工業高校から阪急ブレーブス(現オリックス・ブルーウェーブ)へ。2000年から阪神タイガースにFA移籍し、昨シーズンまでに165勝を挙げている。89、96年には勝率第1位、オールスターには7回出場した。得意のスローカーブやフォークボール、ストレートの巧みな使い分けで打者を翻弄し、阪神移籍後も先発投手として活躍中。自分のプラス面とマイナス面を十分に理解したうえでプラス面を上手に利用することで、マイナス面を目立たなくさせるという明晰な頭脳の持ち主。

星野伸之

奥底にある心の欲求をどうコントロールするか

―メンタルコンディショニングについて、以前桑田真澄投手(読売ジャイアンツ)に伺ったときに、試合前には「今日は何点までなら取られても大丈夫」という感じで、巨人打線と相手投手の力をイメージの中で比較して考えると言っていました。「今日は0点で抑えなければならない」と考えてしまえば、試合中に1点取られたらガックリきますよね。

「投手というのは、1回から9回までヒットも打たれたくないし、完全に0点で抑えたいという欲求はあると思います。オリックス時代は仰木彬監督の考えで先発は5回まで、そして中継ぎ、抑えというリレーがあったので、とにかく5回までは目いっぱい飛ばして投げて0点で抑えようと考えていました。でも今は、3回の間で1点くらいはいいかなと考えるようにしています。これを単純に1試合に置きかえると、3点までは自分の許容範囲ということになります。やはり0点で抑えなければならないと考えると苦しいし、打たれて点を取られるとガックリもきますから」

―心の奥底にある欲求に対し、より現実的な思考によって上手に心をコントロールしているわけですね。実際は0点で抑えたいという欲求と、ここまでなら取られても大丈夫という思考の狭間で心は揺れているのだと思いますが。そのあたりはどうでしょうか。

「そうですね。やはり先制点は取られたくないものです。もし先に1点取られたら焦りの気持ちがわいてきて、『もうこれ以上はやれない』と考えてしまいます。逆に、味方が先に1点取ってくれると心の中に余裕ができ、もし自分が1点取られても、『振り出しに戻るだけだ』と考えることができます。同じ投球をするのでも、どちらの気の持ち方でいくかによって結果は大きく違ってくると思います。ただ現実的には、心を納得させていても点を取られると欲求が顔を出してきて焦ってしまうこともありますが」

―そういう焦りの心理によってついつい投げ急ぎ、相手打者のペースになったり集中力を欠いてしまう原因になってしまったりもするわけですが。

「マウンド上で集中力が途切れてしまったときというのは、あれこれ考えて投げても打たれてしまうものなのです。心理面から見れば、やはり1点取られることを恐れているんですね。取られたくないと強く思えば思うほど、ついつい逃げの心理になって、コーナーぎりぎりの際どいところに投げようとします。集中しているときには、そのぎりぎりのコースでストライクを取れますが、“逃げの心理”のときにはボール、ボールとなりがちです。ここで投手は、フォアボールはまずいのでストライクがほしくなります。そして甘いボールを投げてしまい、結果として大量点を取られてしまうんです」

失敗の原因を焦点を絞って分析する

―そういうときというのは試合後に反省されたりすると思いますが、どのような観点からその一連の流れを分析しますか。

「私の場合は、1本ヒットを打たれたからといって集中力が途切れることはありません。それよりも何本かヒットを打たれる中で、『何かおかしいな』というのが積み重なり『何をやってもダメだ』と思ったときに切れるんです。でも試合後の反省で連打されたときのことを思い浮かべると、その連打という一連の流れを生み出した最初の1本のヒットが重要だということに気づくわけです。
確かに1本目のヒットで集中力が切れはしませんが、それさえ乗りきっていればその後の連打にはつながらないはずです。そういうぐあいに私は、『あのときにあの打者に1本打たれたのが原因だ』とポイントを絞って反省するようにしています。主に、そのワンポイントでの心理面を分析しますね」

―その方法はとても興味深いですね。多くのスポーツ選手は失敗の原因を大まかにとらえがちですが、星野選手のように焦点を絞って分析することで自信の喪失も防げるように思います。

「確かに、負け試合のことをあれこれ全部考えるのは精神的にこたえますから。それに自分の投球をすべて否定したくもありません。あの打者に対しても、この打者に対してもダメだったと考えていくと自信も喪失していって、その負け試合のイメージが強く心に焼きついてしまいます。でもポイントを絞って考えれば、それほど心にもダメージが残らないし、マイナスイメージも強めなくてすむような気がします。
ただオリックス時代にはやっていませんでしたが、阪神に来てから始めたことがあります。それは、反省事項をメモに書いて“記録”として残しておくことです。“記憶”はどうしても忘れてしまいますから」

―とてもプラスの発想で反省されていると思います。結果だけを見れば悪くても、それまでカウントをつくる過程にはよい点もあるはずですね。それをすべて否定してしまうとマイナス思考に陥ってしまいます。

「私は主に自分が投げた次の日を反省の1日にあてています。投げたその夜も少しは反省しますが、やはり冷静に考えにくいですし、負け試合ではついついマイナス思考ぎみになってしまいます。だからできるだけ心が落ち着いた次の日に、練習の中でゆっくり走りながら反省するようにしています。
あとは意識の向け方ですが、勝ち試合でも打たれた打者のことばかりを考えればマイナス思考にもなりますし、抑えた打者のことを考えればプラス思考になると思います。そういう心のコントロールは投手にはとても大切だと思います」

よく考えてから、何も考えずに投げる

―ところで、星野選手はストレートがそれほど速いわけでもありませんが、大きなスローカーブを武器にした球界きっての頭脳派投手という印象が非常に強い。そこで、どのようなことを考えながら投げられているのでしょうか。

「私からすると速いボールを投げられる投手がとてもうらやましいですよ。ただ私が最も意識しているのは、低いボールを投げてゴロを打たせようとすることです。このふたつを柱に、各打者の細かいクセやタイプといった情報を加味しながら投球を組み立てます。たとえば、ある打者はタイミングが遅れるとおっつけて打つタイプだとか、この選手はランナーがたまると変化球一本に絞ってくるタイプだとかですね。こういう情報に関してはチームのミーティングでも実に細かく考えていきます。
ただ、いざ投げるというときには思考をシンプルにするよう心がけてはいます。投球動作に入ってからも、ああだこうだと考えたり、迷ったりすることはよくないとも思うのです。変な言い方かもしれませんが、『よく考えてから、何も考えず思い切り投げる』という感じです」

―投手と打者との心理戦のひとつに、いかに打者の心のリズムを自分のリズムに合わさせるかということも大きなポイントになりますね。それが、間の取り合いということになると思うのですが。

「投手というのはたいていだれでも、自分のリズムでポンポン投げたいものです。打者との間合いで必ずしもそうはできません。集中して『さあ投げよう』と思っているところで、打者がタイムをかけたら一度集中がとぎれますね。そして今度は打者が集中しているところに、自分の集中力が切れた状態で投げてしまうと打者のペースになってしまいます。この間の取り合いはとても重要です。私が特に注意しているのは、打席に入る時間の違いや、構えに入るまでのクセや時間などです。足場をならしている打者に対して、自分がじっと待っているとイライラしたり、緊張感が増してきて身体に余計な力が入ったりしますから、そういうときは一度プレートを外して、後ろを振り向いてロジンバックをポンポンとたたいたりして心を落ち着かせています。これは自分の中ではパターン化されたひとつの方法です」

―確かに投手によっては間を外されたときに明らかに嫌な顔をする投手もいますが、星野選手は何か淡々としているように見えますね。

「自分では、性格的にカッとなりやすいタイプだと思っています。ですから間のことに限らず、連打されたときなど意識しなければ顔に出てしまうのです。やはり表情ひとつ取っても相手には貴重な情報だと思うんですね。怒った顔を見せれば、今自分に余裕がないといっているようなものだし、がっかりした顔を見せれば自信をなくしているといっているようなものです。だから私は、心で感じていることを意識して表情に出さないようにしています」

―ところで自分のミスは自分の責任ですが、野球の性格上、自分では完全に打ちとったはずなのに味方のエラーでランナーが出てしまうこともあると思います。そういうときの気持ちの切りかえをどうしていますか。

「私は基本的には野手がエラーしたときこそ、自分でなんとか抑えようと思います。そうすれば、今度自分がマウンドで困っているときにはその野手がファインプレーをするよう努力してくれるからです。もし野手がエラーして、その後自分がヒットを打たれて点が入れば野手も必要以上に責任を感じるし、気持ちが落ち込むと思うのです。そうすると、野手も気持ちの切り替えが難しく、またエラーしてしまいます。でも私がそのときに踏んばれば、そのエラーは点には絡まない単なるエラーですむので、野手も気持ちを切り替えやすいはずなんですね。そうした野手の心理も考えたうえで、自分の心の持っていき方を考えます。チームスポーツでは、自分の心のコントロールに加えてチームメイトの心理をいかによい方向にコントロールしてあげられるかも考えられるといいですね」

イメージを使いこなすための私のやり方

―話を伺っていると、星野選手は試合中にメンタル面のコントロールをとてもうまく行っていると思います。では、試合直前にブルペンで投げられているときに、メンタル面で気をつけていることはありますか。

「ブルペンでは、投球フォームの中で『今日はここだけ意識して投げよう』という感じで身体の一点に絞って確認するようにしています。それは投げるときの振り上げ脚の位置(高さ)だったり、肩の線(左右の肩を結んだ線)を崩さないような動きだったりします。つまり投球フォームという一連の動作を意識しながら、一点を集中的にチェックするようにしています。やはりフォーム全体をまんべんなくチェックしようとすると、意識が身体のあちこちに分散し気が散ってしまうものです。
それに投球というのは一連の動作が自動化されたものなので、身体の一部がおかしくなると全体が崩れてしまうことがあるのです。その日その日で身体の動きを確実にチェックし、それさえ正しくできていれば他の動作も自動的に動いてくれるんです」

―ブルペンで他に何かやっていることはありますか。たとえば、自分の投げるボールの軌跡をあらかじめイメージしておいて、実際に投げたときの軌跡とのズレをチェックしたりはしませんか。

「ボールの軌跡のチェックはよく行います。自分でこういう感覚で投げたら、これくらいの感じのボールがいくというイメージは自分の中にありますから、イメージどおりのボールが投げられないときにはフォームに何か問題があるのでしょうね。ですから軌跡のチェックは、ストレート、カーブ、フォーク、など全球種行います。それもストライクになるボールだけでなく、ボールになるボールもチェックします。そして投げるときもただ投げるのではなく、右打者と左打者をイメージの中で想定して投げるようにしています。イメージ通りのボールが投げられないときには、おおかたリリースポイントが早すぎてボールが高めに浮いてしまうケースが多いのです。そういうときに無理やり低めをねらっていくと、フォームが崩れる原因になるので、最初はあえて目線を高くして高めをねらって投げるようにしています。そこから少しずつリリースポイントを段階的に遅らせていって最終的に低めにボールが集まるように修正を加えていきます」

―フォームのイメージでは、自分はこういう感じで投げていると思っていても、実際はイメージとは違うフォームで投げているということもあるかと思いますが、いかがですか。また、そういうフォームに関して、イメージと現実のズレを意識して修正することはありますか。

「VTRを見てその違いを感じることはよくありますが、フォームに関しては自然体に任せ、あえて修正はしません。たとえば、私は腕を縮めるようにして投げていますが、これは意識してそうしているのではなく、気づいたら徐々に腕が縮まっていたのです。自分は腕を伸ばして投げているイメージだったので、VTRを見たときに『なんだ、これは』と驚きました。でも私は、『自分に必要だったから身体が自然にそういう投げ方をしているんだ』くらい自然にとらえています。
ただ実際の試合で、打者のタイミングを狂わせて投げたつもりで結果的にも打ち取っていたとしますよね。でも後でVTRを見たら、打者が単に打ち損しただけで実はタイミングは外せていなかったということもあるのです。私はこれを非常に重要視しています。そこでVTRを見ながらイメージを使って、その場面で打者のタイミングを狂わせて打ち取るには、足を上げてからの投球動作のリズムが『トン・トン・トン』なのか『トン・トーン・トン』なのかを確認します。結果では打ち取っていても、自分はタイミングを外せたと勘違いしていると、次の対戦のときに手痛い一発をくらう危険性がありますからね」

―最後に、星野選手は苦手打者と対戦するときはどのような気持ちでマウンドに立ちますか。

「私には苦手打者ばかりですよ(笑)ただ若いころと違って、いい意味でヒットを打たれることを恐れなくなったというのが、自分にはプラスの方向に作用していると思います。誤解を恐れずに言えば、『ヒットなら打たれてもいいや』という考え方です。
ヒットを打たれないように投げたボールを、ホームランにされるということはよくあることなんですね。ホームランは1本で(最低でも)1点です。でもヒットは3本打たれても点が入らないことさえあるのです。だから私は、苦手打者に対してもヒットを打たれるのであれば大丈夫と考えます。少し角度を変えてヒットをとらえていくというのも、時には必要なことなんですね。もちろん抑えるのがベストですが……。ただ、その苦手打者の前後の打者をしっかりと打ち取れるように意識することも大切です。苦手打者を意識するあまり、そこばかり気になって、前後の打者に集中しきれないということもありますから。
私の考えでは点さえ取られなければ、苦手打者よりも自分が打ち取れる(と思う)前後の打者のほうにより意識を集中させますね。またそれくらいの心の余裕を常に持ち続けられるよう意識していきたいとも思っています」

《取材/構成=スポーツライター 佐伯 要》



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