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ラグビー

堀越 正己 masami horikoshi

元ラグビー日本代表

1968年生まれ。東京都出身。埼玉・熊谷工高3年時全国大会準優勝。早稲田大学に進み、1年時からスクラムハーフとして活躍し、大学選手権と日本選手権で優勝。3年時にも大学日本一に。91年神戸製鋼に入社、V4~7に貢献、
95・96年には主将も務めた。91・95年W杯に出場。87年オックスフォード戦で初キャップを獲得して以来、通算キャップ数は26。現在立正大学ラグビー部監督として活躍中。

堀越 正己

「自分のミスは自分が絶対に取り戻すくらいの前向きな気持ちを意識的にもつようにしています」

チーム全員に支えられているという思いが勝利への気持ちを喚起する

――試合を前にした堀越さんはいつも相手を飲み込むような気迫に満ちあふれていましたが、試合前にあそこまで気持ちを高めるのにはたいへんエネルギーがいると思います。何か方法があったんでしょうか。

 早大のラグビー部では、監督が模造紙に必勝の文字を書き入れた後。ベンチ入りする21人のメンバーが決意をそれぞれ表明して書き込んでいくということをしていたんです。「死ぬまでタックル」とか「絶対にスクラムは押されないぞ」とか。その後、模造紙は寮に張り出しておくんですが、試合当日グランドにその模造紙をおいて、試合に出られない控えの選手たちに自由に書いてもらうんですよ。その中には「試合に出られない俺の分まで闘ってくれ。おまえだけを見ている」とか書かれているんですけど、それを試合前に見ると「よし、体を張って死ぬ覚悟でやってやる」と気持ちが急激に高まるんです。試合に出られない選手の気持ちはわかるし、あいつらのためにもやってやるって感じですね。試合に出る奴も出ない奴も全員が一つになったという感じになるんですよ。全員に支えられている気持ちになって体中が熱くなり、ときには涙も出ますね。
  試合前日に塩で清められたジャージを一人一人に手渡されるということもありました。そうして渡されたジャージはチーム全体の思いが込められているようで、気合いが入りましたね。

常に勝つイメージを持っていると緊張が楽しみに変わってくる

――試合前は結構緊張したほうですか。

 もちろんどんな試合でも緊張していましたよ(笑)。緊張しない試合なんてありません。それどころか試合会場が見えてくると、心臓がドキドキしてくるし、手は汗ばんでくるし、かなり緊張してますね。
  そんなときは多勢のお客さんがいっぱいになっているスタンドを脳裏に浮かべて、そんな多くの歓声の中で素晴らしいプレーをしている自分の姿や、仲間の姿をイメージするんです。そして常に勝つイメージをもっていると、だんだんその緊張が楽しみに変わってくるんですよね。もちろん緊張しすぎるのはよくありませんが、楽しむくらいの余裕がある緊張だったら、緊張を感じないで試合に臨むよりいいプレーができるんじゃないですかね。
  そう言えば、大学生のときは会場への移動の際に、そのころ流行っていた音楽を聴いていましたね。テンポのよい曲を聴いていると、すごく緊張しているときでも知らず知らずのうちに体でリズムをとったりしていて。なんとなく心もハイテンポになってくるんですよ。

――試合前に好きな音楽を聴いてリラックスしたり、集中したりするスポーツ選手は多いのですが、堀越さんもそうなんですね。

 はい、もっぱらミーハーな音楽なんですが(笑)。好きな曲を試合会場へ向かう車の中でガンガンかけたりしていますね。
  試合前じゃなくても、音楽はよく聴きます。いつもそうしているので、条件反射のようになっているのか、好きな曲に耳を傾けているとラグビーの世界とは違う、別の世界へ行くような気分になるんですよ。ラグビーと日常生活との切り替えをする手段になっているのかもしれませんね。

いいプレーのイメージを感情も交えて強く思い浮かべ、実際の試合でも実現させようとする

――緊張しているとき、勝つイメージを持つということですが、イメージはよく活用されるのですか。

 試合前はとにかくよいイメージをもつように意識しています。それもただのイメージではなくて感情が伴うイメージです。たとえば、イメージの中でいいパスが出せて気持ちいいなとか、相手をタイミングよくタックルできてスッキリしたなとか。イメージ同様にそのときの感情も大切にしているんです。そうすると、実際の試合のときもこの感情を味わいたいという欲求が高まってくるんですよ。
  それと僕のイメージの特徴は、試合前日の寝る前に試合全体のイメージを作るんです。キックオフから始まって、モールやラックを含めたイメージなんです。イメージの中でスクラムハーフとしての自分を自在に動かしてみるんです。逆に試合当日はグランドに入ってウォーミングアップするときに自分のプレーを実際に自分の体を使ってイメージするんですね。実際に手を使ってボールをキャッチするイメージをして、実際に体重移動してパス出しするまでを何度も体を使って繰り返すようにしています。

熊谷工高時代の大阪工大高戦での勝利がバネに。成功体験を何度も思い起こして自信をつける

――堀越さんはジャパンのジャージをつけて外国の大型選手と対戦するときによくイメージされる試合があるそうですね。

 ええ、僕が熊谷工高3年のときの全国大会準決勝の大阪工大高戦です。
  フォワード平均体重80キロの大阪工大高に対し、70キロの熊谷工で、前評判では圧倒的不利と言われていた試合だったんですけど、勝てたんですね。今では試合の詳しい内容は忘れてしまったんですけど、低いタックルや速さ、スペースを上手に利用すれば、体格で劣っていてもやり方次第で勝てることを学んだんです。
  この試合は大きな自信になりましたね。早大時代に明大の大型フォワード相手に対してもこの経験を思い出して、たとえ相手が大きくても絶対に勝てる自信がありました。

――成功した体験が大きな自信になっているということですね。

 スポーツ選手は、僕のような成功体験をもつことが必要だと思いますね。不安や恐怖にとらわれたときに、成功体験を思い出してイメージし、「あのときにあれだけのことをやれたんだから、今回も絶対に大丈夫、勝てる」と自信を回復させることができますから。それが土壇場で力を与えてくれるきっかけになるんです。
  もし同じケースで100回中、99回失敗しても、1回でも成功したことがあるなら、その1回をイメージするようにします。失敗体験をイメージしてしまうと、「あのときも負けたんだから、また今回もダメだろう」と逆に不安を大きくしてしまいますからね。

自分から前に突っ込んでタックルするような攻めの気持ちを意識的にもつ

――ところで堀越さんは試合中にミスをされたとき、どのように気持ちを切り替えていましたか。

 僕はスクラムハーフなので、とにかくずっとボールとともに動いて次から次へとパスをださないといけないんです。ゆっくりミスのことを考える余裕がないので、それがかえっていいのかもしれないですね。逆にフルバックなどのバックスのほうがミスした後、一人で低位置に戻るときに少し時間が空くので、ミスについて深く考えてしまうかもしれません。
  それとラグビーはサポートのスポーツだと思うんです。もし自分のタックルが外されても、残りの14人の仲間が必ず自分のミスを補ってくれるという信頼感があるんです。この信頼感は、毎日の厳しい練習の中から生まれてくるものだと思います。
  それにラグビーは80分のゲームなので、自分がミスして点を取られても、取り返すチャンスがあるんですよ。だから僕はミスをくよくよ考えるよりも、自分のミスは、自分が絶対に取り戻してやるくらいの前向きな気持ちを意識的にもつようにしています。ミスを考えているとプレーが守りの心理で消極的になってしまいます。タックルもかわされたくない気持ちが強まって相手が間近に来るまで待ってするようになるものです。僕はそれは嫌なので、攻めの気持ちで自分から前に突っ込んで倒してやるっていうタックルをします。そうすると受身のタックルよりもケガをしないものなんです。

自分だけでなく、他のメンバーも含めて最高の試合を展開しているイメージを持つ

――スクラムハーフというポジションは、フォワードとバックスのつなぎ役という重要なポジションですが、フォワードへの指示如何でゲームの展開が変わってしまうような経験はありませんでしたか。

 そうなんです。試合中選手たちに指示を出すんですが、フォワードがなかなか思うように動いてくれなかったこともありました。その原因を考えていると一つのことに気づいたんですね。それまで「フォワード、もっと押せ」と言っていたんです。それを個人名で名指しで言うようにしたんです。「誰々さんもっと押せ」って感じで。するとよく動いてくれるんですよ。つまりフォワード8名を一まとめにすると、一人一人と気持ちや意思が通じないし、一人一人の責任感がめばえないんです。またフォワードも、「俺が」ではなく「俺たち」という意識が強まるんですね。

――そういえば「堀越さんがチームをグイグイと引っ張っていけるのはチーム全体を見渡せる高い意識をもっているからだ」と他の選手がコメントしていました。

 選手たちにはでっかい声で誉めたり、激励するようにしています。試合だけでなく、練習でも意識的にでかい声を出すようにしていましたね。僕はめったに叱らないんですよ。他の仲間に聞こえるくらいの大声で誉められれば、その選手も自尊心がくすぐられて心理的にも乗ってきますから。

――堀越さん自身が自分を励ましたり、暗示をかけたりということはないんですか。

 僕は試合に出かける前に、自分自身に「今日の試合で120%の力を出して、絶対に勝つ」と暗示をかけるようにしてますね。このときは「勝てるように」ではなくて、「勝つ」という断定的な言い方をするようにしています。
  僕の場合はこの自己暗示をした後に「他の14人も120%の力を発揮できる力を与えてくれ」と暗示というよりも祈りに近いような言葉を言うようにしてますね。そうして自分だけでなく、他のメンバーも120%の力を出して最高の試合を展開しているイメージをもつと、それがあたかも現実のことのように思えて安心できます。また、実際に絶対勝てるように思えるんですよ。やっぱりラグビーは全員でやるものだけに、自分一人が全力を出せると暗示をかけても、誰かがダメだと勝てるという現実感がわかないんです。

早大時代の厳しい特訓のおかげで自分の可能性を広げることができた

――今の堀越さんのラグビーの源は、早大1年の地獄のような特訓によるものだそうですね。

とにかく1年のときは毎日ひたすら走らされてましたね(笑)。タイムトライアルでグランド10周走った後。ダッシュ、ランパスが永遠に続くんですよ。もう精神的にも肉体的にもボロボロになるほどきつかったですね。
でも本来人間は、本当に自分のもっている力の70%くらいしか出さないで「もう限界が来た。もうダメだ」と自分の限界値を作るものなんです。でも本当はまだ30%くらい余力があるんですよ。あの特訓は自分の力の100%の力を知ることのできた経験でしたね。「もう走れない、これ以上走ったら死ぬ」と心の中で思っても、ラグビー部を去るか走るかの究極の選択に身を置くと、不思議と走れるものなんですよ。

――でも、そういったきつい練習が続いて、ラグビーが嫌いになったりしませんでしたか。

 実は大学2年の終わりから3年の初めくらいまで、精神的にスランプな時期があったんですよ。ラグビーに関して強く心が動かなくなったって感じなんです。やる気も湧かなくなってしまって。そのときにそんな自分の気持ちをOBや先輩に相談してみたんだけど答えが見つからなかったんです。
  いま思い返してみると、原因はラグビーに対するマンネリ化だったような気がします。そんなときには、本当はしばらくラグビーから離れているのがベストなのかもしれませんね。そうすれば、また新鮮な気持ちでラグビーを見られますから。でもその当時は学生でしたし、練習メニューも変えずにがんばってたら、その精神的スランプは時間が解決してくれました(笑)。もし少し心理的休養を取っていたら、もっと早く解決していたかもしれませんね。

――「球のあるところ堀越あり」とよく言われましたよね。堀越さんのプレーはいつもエネルギッシュでしたが、それはその特訓のたまものなんですか。

 もちろん、走り通しで苦しくなるときもあるんですよ。でもあの特訓のおかげで「まだまだ走れる。本当に死なない限りは走れるんだ」と思え、心の中のパワーが大きくなるんです。心で限界を作ってしまうと、それがストレートに体の限界になってしまいますから。
  今、立正大学ラグビー部の監督をしているんですが、気持ちでやってきた僕のラグビーを踏まえて学生たちに教えていきたいと思っています。選手たちには成功体験はもちろん、それぞれが勝手に思い込んでいる限界を、練習や試合を通じて越えていくような体験をしてほしいですね。

《高畑好秀著「メンタル強化バイブル」(池田書店 1999年)より転載》



メンタルトレーナー高畑好秀プロデュース