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アメリカンフットボール

阿部 拓朗 takuro abe

日本人初のNFLヨーロッパ

1972年生まれ。福井県出身。福井県立高志高時代はバスケットボール部に所属。その後京都大学へ進み、名将水野監督のもとでアメリカンフットボール部に。95年の大学4年時には、学生日本一を決める甲子園BOWLを制覇。その後RICEBOWLも制覇し、真の日本一となる。同年、全米カレッジオールスターのシュライン・クラシックのメンバーに日本人として初めて選出。NFL EUROPEにも日本人として初めて参加。アムステルダムアドミラルズにて1シーズンプレーする。現在アサヒ飲料クラブに所属し、98年関西リーグ優勝に貢献する。

阿部拓朗

「イメージの中で敵やボールを動かして、それに合わせて自分の動きを作るような練習をしています」

相手を激しく憎むくらいにまで闘争心を高めて試合に臨む

――阿部さんは試合前はどのように気持ちを高めていましたか。

 アメフトという競技は、球技でありながらボクシングのような格闘技の要素が強いんですよ。ワンプレー、ワンプレーが本当に闘いです。ちょっとでも油断していると、タックルなどでぶっ飛ばされて骨折したりもしますから。だから試合前は、相手をぶっ殺してやるくらいまで心理状態を高めます。そのために試合前は意図的に笑わないようにしていました。笑うというのは、何となく心理面を穏やかにしてしまいますから。

 でも人間が、相手に対して殺してやるくらいの気持ちをもつのは大変ですよ。だから僕は敵チームの選手とは話さないし、親しくもしないようにしてきました。すごく無愛想な奴って思われていたでしょうね(笑)。人間って試合だからといって、急に気持ちを切り替えて、親しい相手をぶっ殺すという風にはいかないでしょ。だから僕だけでなく、チームメイトのみんなもそれくらい徹底していましたね。

――そこまで心理状態を高めるには、何らかの方法があると思うんですが。

僕は基本的にフットボール選手としてはやさしい人間だと思うんです(笑)。でも試合前は、意識的に相手選手に怒りや憎しみをもつようにするんです。その理由は何でもいいんです。要するに相手に憎しみをもてればいいわけですから。以前やった試合でつぶされたとか、あのチームには 10 回対戦して、7回も負けたとか、顔が気に入らないとか(笑)。俗に言ういいがかりってやつですね。そのいいがかりを自分の心の中で沸々とさせて気持ちを高ぶらせていくんですよ。

 高まってくると「誰々を今日は生かしてグランドから帰さない!」と叫んでいることもあります。

練習で 100 %の力を出すことで、試合でも 100 %の力を発揮できる

――試合中もずっと「相手を殺してやる」ってプレーしているんですか。

 試合が始まると、もう頭の中がいい意味で真っ白の状態ですね。自分自身や相手のことすら考えない、ある意味、淡々と目の前のプレーだけに集中しています。

 不安や緊張って、負けるとか、自分が失敗したらどうしようと思うから生じるものですよね。もし仮に失敗したとして「まずい、失敗してしまった、どうしよう」ってくよくよしていたら、体が固くなってまた失敗するもんなんですよ。この不安や緊張は、心を切り替えようとして遠くに逃げようとすればするほどさらに大きくなって追いかけてくるんです。そうしたら逃げなきゃいいんですよ。失敗した自分を直に認めてあげるんです。人間なんて失敗するもんなんです。 100 %自分が一生懸命プレーした結果の失敗なら仕方ないんじゃないですかね。

 アメフトの場合、1試合 60 プレーくらいあるんですけど、そのうち5~6回は失敗するものですよ。多くのフットボール選手は、 100 %自分の力を出し切ることと、 100 %失敗なく自分のプレーをすることを勘違いしてる気がするんです。

 野球の3割打者だって 10 打席立てば、7回は失敗してるわけですから。失敗を怖がってそこから逃げるんではなくて、「人間だから失敗もするよ」と認めて、その失敗を後のプレーにもち越さないことが大切だと思うんですね。

――どんな試合でも 100 %自分の力を発揮するというのは難しくありませんか。

試合のときだけ、そのように考えてもだめでしょうね。

僕のいた京大アメフト部の場合は、水野監督が僕ら部員に禅問答みたいなことを言うんですね。「 100 %かけてアメフトやるのか」「はい、やります」「今日の練習は 100 %出し切ったのか」「いえ、 100 %は出し切ってません」「最初に 100 %出すといったのになぜ、今日は 100 %出し切らなかったのか」「いや、うーん……」のような感じですね。こういう問答がミーティングのときや、夜中に延々と続くんです。もう僕らが何を答えても「違う、違う」と続くんですね。

それを監督と、とことんまで逃げずに続けていると、弱い自分自身に向き合えるようになっていけるんです。「勝つためには……」と監督や自分自身に問い続けているうちに。

だから知らず知らずのうちに「 100 %アメフトやってます」と自信をもって答えるために、練習はもちろん、日ごろの生活を少しでもアメフトに替えているんですよ。女の子と遊ぶ時間が筋力トレーニングの時間に変わり、家でテレビを見ている時間がアメフトのVTRに変わったり。今考えると、水野監督は選手のメンタルトレーニングが上手だったと思いますね。

 でも、そこまでやってもなかなか 100 %出し切っているとは言い切れず、また禅問答でやられる。それを何度も何度も繰り返しているうちに、「これだけのことをやってきたんだから絶対勝てる」という自信が徐々に生まれてくるんですね。そして、失敗を恐れる自分を乗り越えて、試合で本当の意味で集中できる自分に近づくことができるんです。こうやって日ごろから 100 %を出し切る努力をしていれば、試合でも 100 %の力を発揮できるんですよね。

成功したプレーのVTRを繰り返し見ることで自信を深め、 次の試合のヒントを得る

――VTRを使ってのイメージトレーニングは行っていたんですか。

僕は自分のプレーをVTRで見るときは、自分のよいプレーばかり見ますね。そういうVTRを見ていれば、自分はすごいプレイヤーなんだって自信が強まりますから。それに成功したプレー中にはヒントが多いですから。そのヒントを自分のイメージの中で操作してその1プレーから類似した場面を何通りも想定します。

イメージの中で新しいケースを何度も繰り返していくと、実際の試合で、そうしたケースに直面すると体が勝手に反応していくものなんですよ。ヒントさえ見つけ出せれば、イメージの中でそのヒントを応用して、さらにその他のプレーも体験できるのは、すばらしいことだと思います。練習や試合で実体験できるケースには限りがありますが、そのイメージを基にして仮想体験できるケースは無限にありますからね。

失敗のVTRは、その失敗の原因を見つけたら二度と見ません。あまり繰り返して見ていると、その失敗の映像がイメージとして心に焼きついてしまって、成功イメージを描こうとしても、その失敗イメージが浮かび上がってくるんですよ。それではまずいんで、失敗の原因を見つけるだけにしています。試合前日も、寝る前に成功プレーばかりを何回も見て、ベッドに入ってからも成功イメージを繰り返しイメージして、気づいたら朝だったということもありました(笑)。でも成功イメージをそれくらい大切に考えていますね。

それと自分のVTR以外でも、NFLのハードタックル集なども見ますね。できないプレーでも見ているとできるような気がしてくるから不思議です。ただ、このVTRを見るときも、ワンプレーごとに停止して画面の中のタックラーを自分に置き換え、そのプレー映像をイメージの中で繰り返すようにはしていましたよ。ただ漠然と見るだけでは不足だと思うんですね。

漠然と練習してもダメ。 試合のことや敵のことをイメージしながら練習に取り組む

――そういったイメージを、実際に体を使った練習の中でどう生かしているんですか。

 たとえば筋力トレーニングで、バーベルを上げるときにも、相手をタックルしてぶっ潰したときのことをイメージしてやっていますね。火事場の馬鹿力じゃないですけど、心理面にタックルするときの「ぶっ倒してやる」という感情を与えてやると、重い負荷のバーベルでも上がるものなんですよ。それにダッシュやステップを切る練習、タックル練習でも、敵役がいないときなどは、自分で仮想の敵を作ってイメージの中で動かし、ボールや相手の動きに合わせた自分の動きをするようにしていますよ。

 イメージの中では、好きなように相手を動かせますから実際の敵役よりも効果的だったりしますね。僕は、日ごろの練習の中でもイメージを使わず、ただ漠然とやっていたら何にもならないと思うんです。

――ところでアメフトはケガが多いと思うのですが、阿部さんはケガに対してメンタルケアはしていましたか。

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――阿部さんは欧米でもプレーされてきましたが、日本には心理的に依存型の選手が多いように思えませんでしたか。

 そうですね、アメフトの場合、自分のタックルすべき範囲と、味方の他の選手がタックルすべき範囲の境あたりにファジーな部分ができるんですね。つまりどちらの選手がタックルしてもいい中間点を、相手選手にまんまと抜かれてしまうことが多いんです。両方のタックラーがそれぞれ「あいつが止めてくれるだろう」って考えてしまうんですね。でも僕は、「信じるのは自分」というのが信条ですから、そのような状況では自分から止めに行きますね。

 実はもともと僕は、大学1、2年のころはサボリ魔でして(笑)。だから4年になってもチームメイトに信頼されてなかったんです。何を言っても何をやってもですよ。そんなときコーチから「人を信頼するということは、人に信じてもらえる自分を作ることだ」と教えられたんです。それからの僕は、プレーで証明し、あいつに任せれば大丈夫と信頼される選手になろうと考えたんです。

 だから、そんなファジーな部分のタックルはいわば大きなチャンスですよね。そのチャンスを積極的思考でつかんできたんです。依存型の選手は自己責任能力が薄いんでしょうね。そういう選手は、失敗や試合で負ける原因を自分ではなくて、外部の要因に求めるんです。確かに日本人選手のほうが依存の強い選手が多いように思いますね。

 でもNFLヨーロッパの選手でも自分のプレーの失敗を「家族をアメリカに残して一人でここでやってるからダメなんだ」と自分自身ではなくて、外部に求める奴もいましたね。それに「あのタックルは俺じゃなくて、あいつが止めるべきだったんだ」と他人のせいにする奴もね(笑)。そんな選手はいくら運動能力があってもメンタルな面で負けてるんで、いい選手は少ないでしょう。

《高畑好秀著「メンタル強化バイブル」(池田書店 1999年)より転載》



メンタルトレーナー高畑好秀プロデュース